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ACL損傷は保存療法で修復されるのか!?-新しい保存療法プロトコル-

Study

「前十字靱帯(ACL)を断裂した場合,年齢が若い人,もしくはスポーツを継続したい人ならば基本的には手術したほうが良い」というのが現在のコンセンサスだと思います.前十字靱帯が機能不全のままでは,膝折れする危険や半月板損傷のリスクが高くなるためです.前十字靱帯は断裂し連続性が失われてしまうと自然には修復することはあまりないと考えられていました.

そんな常識をひっくり返す可能性がある画期的な保存療法の論文1)が2023年6月のBritish Jornal of Sports Medicineに掲載されました.

Healing of acute anterior cruciate ligament rupture on MRI and outcomes following non-surgical management with the Cross Bracing Protocol
Objective Investigate MRI evidence of anterior cruciate ligament (ACL) healing, patient-reported outcomes and knee laxity in patients with acute ACL rupture man...

この論文の結果では,ACL断裂後に保存治療で90%の対象者において靱帯の連続性が回復した(!)ということです.

もともと,ACLは血流豊富で修復能力があるという基礎研究はあったようです.さらに,KANON Trialのセカンダリ解析でACL損傷患者の30%に,ACL修復しているMRI画像が得られていた2)とのこと.

上記論文の著者らは,損傷ACLの距離が近くなる膝90度屈曲位で固定することで修復が得られるのではないかと考え,Cross Bracing Protocol(CBP)というプロトコルを考案し,ケースシリーズを発表しました.

対象者は急性期ACL損傷患者80名(平均年齢:26歳 範囲:10-58歳).なんと,この中には競技レベルの高いプロスポーツ選手も含まれていました.

対象の適格基準は, 
1)損傷後4週以内
2)MRIでACL OsteoArthritis Score(ACLOAS) grade 3
3)プロトコルの説明を受け納得

除外基準は,
1)手術が必要な合併症(例:不安定な半月板のbucket-handle損傷)
2)深部静脈血栓症 or 肺塞栓症の既往

靱帯のMRI画像評価に用いているACLOAS grading systemは4段階のスケールになってます.

ACLOAS grading system

0

normal ligament with hypointense signal and regular thickness and continuity
1 thickened ligament and/or high intra-ligamentous signal with normal course and continuity
2 thinned or elongated but continuous ligament
3 absent ligament or complete discontinuity

結果の指標と評価のタイミングを図にするとこんな感じ.

気になるプロトコルの詳細はこちらから確認できます↓

https://bjsm.bmj.com/content/bjsports/suppl/2023/06/14/bjsports-2023-106931.DC1/bjsports-2023-106931supp001_data_supplement.pdf

ざっくりと装具による膝関節制限と荷重について抜粋した表が下記です.

膝関節90度固定で1ヶ月,その後3ヶ月までに徐々に制限解除というのがプロトコルの特徴で,生活にいろいろ支障きたしそうで辛そうですが,結果をみるとプロトコルの遵守率 96%と非常に良好.

ACLの修復については,3ヶ月時点のMRIで90%(72名)がACL修復が得られた,という驚きの結果.

修復が得られなかった8名中6名は,lateral wall ±PCLへ付着していたとのこと.

論文中に載っている5名のMRI画像をみるとかなりきれいにACLが修復されいているのがわかります.

https://bjsm.bmj.com/content/bjsports/early/2023/06/13/bjsports-2023-106931/F2.large.jpg

3ヶ月時点のMRIでACL OsteoArthritis Score grade(ACLOAS) が低い(より正常に近い)ほど最終的な結果も良好で,3ヶ月→6ヶ月でACLOASが改善したのは4名のみ(4名とも1→0).3ヶ月時点で修復されるかどうかが概ね決まっている感じですね.  

大腿骨側のACL起始部の部分剥離がある場合3ヶ月時点の修復遅い傾向だった.

膝の機能としては,3ヶ月時点でACLOAS grade 1 の患者のほうがgrades 2-3 よりも,Lysholm Scale score, ACLQOL score とも良好.

スポーツ復帰率は,3ヶ月時点でACLOAS grade 1 の患者のほうがgrades 2-3 よりも12ヶ月でのスポーツ復帰率高かった.

ACL再断裂は11名(14%) ※スポーツ中の再断裂が主.患者の年齢やスポーツのレベルによっても再断裂率は異なるので,過去の再建術の研究との単純な比較はできませんが,悪くない結果かなと思います.

気になる有害事象は,

  • 深部静脈血栓症2名.プロトコル開始2週目で発見.→抗凝固薬で治療し改善 ※この2名後にプロトコルに深部静脈血栓のスクリーニングなど予防措置を追加
  • 膝90度固定での装具常時着用に関して不快感の訴え多かった→それに対する治療などは不要で,不快感による脱落者なし
  • 10週ころに屈曲拘縮( 5°–15°) 11 名(14%)→理学療法で改善
  • 対側下肢のオーバーユースによる疼痛 数名

という結果でした.注意すべき重大な有害事象は深部静脈血栓ですね.拘縮はもっとシビアな症例がいても不思議ではない気がするのですが,実際そんなに問題にならないんでしょうかね,ちょっと疑問です.

以上のように全体として良好な結果で,今後のACL断裂に対する治療方針を変える可能性のある画期的なプロトコルでした.ただし,現状ではこのケースシリーズのみの報告しかなく,この結果をこのまま鵜呑みにできる状況ではありません.今後,追試的な介入試験や,通常のリハビリテーションや手術との比較試験が実施されて行くと思いますので,その結果を楽しみに待ちたいところです.

ACLの手術をしなくても良いのであれば,恩恵を受けられる人は非常に多いと思います.手術は身体的にも,経済的にも,時間的にも負担が大きいですし,術後の経過もなかなか苦労することもあるので,保存で治療できるのであればそれに越したことはないでしょう.

個人的にはすぐにでもこのプロトコルを採用したいくらい気になってますが,実際臨床で適応できるくらいになるにはもう少しデータが集まる必要があるかと思います.

特に,膝関節屈曲90°固定期間が長いことによる深部静脈血栓症のリスクはどの程度あるのかは十分に注意したいところですし,ほんとに今回の結果くらい良好な修復率が追試で得られるのかまだ疑問があります.あとは,伸展制限が長期に残ってしまうケースがあるのではないかと個人的な懸念として持っています.

今後数年でパラダイムシフトがおきるかも!?楽しみです!

参考文献

  1. Filbay SR, Dowsett M, Chaker Jomaa M, Rooney J, Sabharwal R, Lucas P, Van Den Heever A, Kazaglis J, Merlino J, Moran M, Allwright M, Kuah DEK, Durie R, Roger G, Cross M, Cross T. Healing of acute anterior cruciate ligament rupture on MRI and outcomes following non-surgical management with the Cross Bracing Protocol. Br J Sports Med. 2023 Jun 14:bjsports-2023-106931. doi: 10.1136/bjsports-2023-106931. Epub ahead of print. PMID: 37316199.
  2. Filbay SR, Roemer FW, Lohmander LS, Turkiewicz A, Roos EM, Frobell R, Englund M. Evidence of ACL healing on MRI following ACL rupture treated with rehabilitation alone may be associated with better patient-reported outcomes: a secondary analysis from the KANON trial. Br J Sports Med. 2023 Jan;57(2):91-98. doi: 10.1136/bjsports-2022-105473. Epub 2022 Nov 3. PMID: 36328403; PMCID: PMC9872245.

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