夏が来ますね!
高校野球の地区予選が始まります!全国各地で甲子園を目指す熱い戦いが繰り広げられるわけです。
実は私も高校球児でした。
高校野球で毎年話題になることのひとつとして、投手のオーバーユース、投げすぎ、があります。
多い球数を投げてでも、最後まで投げ切る投手の健闘が美談として扱われることもありますよね。
たしかに、ひとりで投げぬくエースの姿には胸をうつものがあります。
しかし! 医療サイドとしては、高校野球の投手の酷使は問題があると思っています。
今回は、最近発表された青少年野球選手の肘と肩の怪我のリスクファクター(危険因子)についての、システマティックレビュー1)を紹介します!
研究デザインはシステマティックレビュー。2016年7月時点に文献検索を行いレビューしています。
目的は以下の2つ
1) 青少年野球選手の肘と肩のケガのリスクファクター(危険因子)を明らかにすること
2) Major League Baseball and USA Baseball Pitch Smart Guidelinesを文献的知見がサポートするかどうかを明らかにすること
ちなみに、 Major League Baseball and USA Baseball Pitch Smart Guidelinesは、アメリカで作成された投手のオーバーユースを防ぐためのガイドラインで、年齢に応じた投球量の推奨などがあります。
Major League Baseball and USA Baseball Pitch Smart Guidelinesの年齢別投球数制限と投球後の休息についての推奨
Major League Baseball and USA Baseball Pitch Smart Guidelinesのケガにつながるリスクファクター
- Pitching While Fatigued / 疲労がある中での投球
- Throwing Too Many Innings over the Course of the Year / 年間を通じて多すぎるイニングに登板
- Not Taking Enough Time off from Baseball Every Year / 毎年の野球についての不十分なオフ期間
- Throwing Too Many Pitches and Not Getting Enough Rest / 多すぎる投球数と不十分な休息
- Pitching on Consecutive Days / 複数日の連投
- Excessive Throwing When Not Pitching / 登板以外での過剰なスローイング
- Playing for Multiple Teams at the Same Time / 同時に複数のチームでプレー
- Pitching With Injuries to Other Body Regions / 身体の他の部位のケガをした状態での投球
- Not Following Proper Strength and Conditioning Routines / 不適切な日常のコンディショニングとストレングス
- Not Following Safe Practices While at Showcases / “Showcases”での安全ではない練習
- Throwing Curveballs and Sliders at a Young Age / 幼少のころにカーブやスライダーを投げること
- Radar Gun Use / スピード測定器の使用
さっそくシステマティックレビューの結果を見てみましょう。
最終的に22論文が採用 (Level of Evidence;LOE Ⅰ 1論文, LOEⅡ 6論文,LOE Ⅲ 12論文, LOE Ⅳ 3論文)
少なくとも3論文にて検討されているリスクファクターについて本論文にてレビュー
19の独立したリスクファクターについて検討
肘と肩のケガと関連が明らかなリスクファクター 6つ
- 年齢・・・12歳以上でケガのリスク↑
- 身長・・・背が高いほどリスク↑
- 複数のチームで投球
- 球速・・・速いほどリスク↑
- 腕の疲労
- 試合での投球数が多い・・・肩のケガのみリスク↑
肘と肩のケガと関連が明らかではないリスクファクター 7つ
- 試合での投球イニング数
- “shouwcase”への参加
- 年間試合数
- 週あたりのトレーニング日数
- Breaking Pitches; カーブ/スライダーなどの変化球・・・肘や肩のケガのリスク↑との報告あるが、反対の報告も多い。最近のバイオメカニクス研究では速球のほうがカーブなどに比較し肘や肩へのストレスが大きいとの報告あり。
- 肩関節外旋可動域
- 肩関節総回旋可動域
まだ結論が出せないリスクファクター 6つ
- 体重
- 年間の投球した月数
- 年間の投球したイニング数
- ポジション(キャッチャー)・・・ピッチャーとキャッチャ―の両方のポジションをやるとリスク↑との報告と関連ないとの報告あり
- 肩関節水平内転可動域
- 肩関節内旋制限(Glenohumeral Internal Rotation Defict;GIRD)
このレビューの結果から前述のMajor League Baseball and USA Baseball Pitch Smart Guidelinesのケガにつながるリスクファクターの中で支持されたものを赤字、支持されなかったものを青字でかいてみました。
- Pitching While Fatigued / 疲労がある中での投球
- Throwing Too Many Innings over the Course of the Year / 年間を通じて多すぎるイニングに登板
- Not Taking Enough Time off from Baseball Every Year / 毎年の野球についての不十分なオフ期間
- Throwing Too Many Pitches and Not Getting Enough Rest / 多すぎる投球数と不十分な休息
- Pitching on Consecutive Days / 複数日の連投
- Excessive Throwing When Not Pitching / 登板以外での過剰なスローイング
- Playing for Multiple Teams at the Same Time / 同時に複数のチームでプレー
- Pitching With Injuries to Other Body Regions / 身体の他の部位のケガをした状態での投球
- Not Following Proper Strength and Conditioning Routines / 不適切な日常のコンディショニングとストレングス
- Not Following Safe Practices While at Showcases / “Showcases”での安全ではない練習
- Throwing Curveballs and Sliders at a Young Age / 幼少のころにカーブやスライダーを投げること
- Radar Gun Use / スピード測定器の使用
疲労している状態で多い球数を投げるということは、肘や肩のケガの予防の観点からすると絶対に避けるべきであると言えそうです。
ちなみに、日本でもリトルリーグとシニアリーグに関しては球数制限・イニング制限などがあります。
下記の中学生投手の投球制限に関する統一ガイドラインに関しては、軟式野球の指導者も知っておいたほうが良い内容ですね。
中学生投手の投球制限に関する統一ガイドライン
1.試合での登板は以下のとおり制限する。
1日7イニングないとし、連続する2日間で10イニング以内とする。
2.練習の中での全力投球は以下のとおり制限する。
1日70球以内、週350球以内とする。また週に1日以上、全力に
よる投球練習をしない日を設けること。
現状、硬式野球で一番野放しなのは高校野球ですね。。。甲子園では試合間隔も短いですし。
ただ、試合後のインタビューを見ていても徐々に投手に無理をさせないようにする監督が増えてきていると感じます。また、理学療法士などがチームに入っていて選手の状態の判断をしている高校もあります。徐々にオーバーユースによるケガを防ぐ意識は高まっていると思います。
高校の部活動なのですべてのチームに専属のトレーナー/メディカルスタッフを置くことは日本ではできません。スポーツのために選手を集めている学校でなければ、複数の実力のある投手をそろえることも難しく、試合でエースにかかる負担が増えてしまうのは仕方がない部分はあります。
せめて公式の試合以外での、練習や練習試合での過度の投げさせすぎなどをさせないように、疲労や軽い痛みある場合に選手に無理をさせず休ませたり、早めに整形外科で医師や理学療法士のチェックを受けるように、すべての指導者の方にお願いしたいです。
参考文献
1)Norton R, Honstad C, Joshi R, Silvis M, Chinchilli V, Dhawan A. Risk Factors for Elbow and Shoulder Injuries in Adolescent Baseball Players: A Systematic Review. The American journal of sports medicine. 2018 Apr 1:363546518760573. Epub 2018/04/10.
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