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肩関節周囲炎(五十肩/凍結肩)に対するの保存療法の最新メタアナリシス

Study

整形外科のクリニックで勤務していると関わることが多い疾患のひとつが、肩関節周囲炎、いわゆる五十肩/四十肩といわれるものです。

一般人口の発症率は2~5%で、高齢者や糖尿病患者で有病率が高いといわれています1)。 長期にわたり症状が続くことがあるのが厄介で、1-3年にわたり症状が続くこともあるという報告もあります2,3)

肩関節周囲炎の定義は、以下の3つの臨床的特徴を持つことです4)

  1.  重度の疼痛の潜行性の発症
  2. 外旋の著しい低下を伴う可動域制限
  3. X線写真所見の陰性 

また、臨床的特徴(症状)が異なる3つのフェーズがあります5)

  1. 痛みを伴う炎症期(painful freezing phase)
  2. 凍結または癒着期、拘縮期(frozen or adhesive phase)
  3. 融解期または回復期(thawing or regression phase)

明確なきっかけがなく肩の痛みが発生し、徐々に悪化、時には眠れないほどの夜間痛もあって非常につらいが、整形外科で検査しても肩関節の構成体自体に損傷はないといわれ、「肩関節周囲炎」「五十肩」「凍結肩(frozen shoulder)」といった診断をされる。そして、痛み止めの薬や状態によってはステロイド注射などで痛みをコントロールしつつ、理学療法などの保存療法で経過をみるが、1年くらいたってもまだ十分に改善しない。こういったケースを経験することもあると思います。

そもそも、どんな保存療法(手術以外の治療法)が有効なのでしょうか。今回は肩関節周囲炎に対する保存療法の最新のメタアナリシス6)を読んだのでまとめてみます。論文中ではFrozen shoulder(凍結肩)となっていますが、ここでは「肩関節周囲炎」という名称で訳して記載します。

▸目的

肩関節周囲炎にたいするさまざまな保存的治療の有効性を比較し、治療効果に影響を与える患者固有の要因を特定すること。

▸研究デザイン

システマティックレビューおよびネットワークメタアナリシス

▸方法

PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceの各データベースを開始から2019年2月18日まで検索し、関連する参考文献リストの手動レビューで補完した。

肩関節周囲炎に対して、非外科的介入を比較したランダム化比較試験を選択した。

測定されたアウトカムは、疼痛、日常生活動作における肩関節機能、可動域など。

▸結果

検索された3136件のうち、92件の論文が採用された。5946人の患者を対象に32種類の非外科的介入を評価した。評価された治療法の一覧は次の通り。

・・・32種類、、多いですね。。

評価された治療法の一覧。Zhang J.2020より引用、一部改変。

ジオメトリックネットワークをみてみると次のような感じ。従来の理学療法; cpt、関節内ステロイド注射; si、関節マニピュレーション;mnなどが多く比較研究されているようです。

(A)疼痛(76試験、4909人)と(B)肩機能(66試験、4260人)について比較を行った研究のジオメトリックネットワーク。各ノードは介入を示し、ノード間に直接比較が可能な場合はエッジで接続されている。ノードの大きさは特定の介入を受けた患者数に比例し、エッジの幅は各介入のペアを評価する試験の数に応じて重み付けされている。Zhang J.2020より引用、一部改変。
疼痛に対する効果

各治療法の疼痛に対する効果をプラセボと比較してみてみると、プラセボよりも効果があったのは、関節内ステロイド注射(1.68 [1.03-2.34])、capsular distension(2.68 [1.32-4.05])、体外衝撃波(2.33 [1.41-3.26])、レーザー治療(3.02 [1.84-4.20])、鍼治療、カルシトニン、マニピュレーション、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)といった治療法でした。

従来の理学療法単独ではプラセボと比較しても有意な疼痛改善効果はない(0.33[-0.30 – 0.97])ようですね。

疼痛についてプラセボと比較したネットワークメタアナリシスのフォレストプロット。Zhang J.2020より引用、一部改変。

従来の理学療法 vs 関節内注射の比較では、関節内ステロイド注射(1.35 [0.79-1.91])、capsular distension(2.35 [1.03-3.66])のほうが従来の理学療法よりも疼痛緩和の顕著な改善をもたらした。

肩関節機能に対する効果

肩関節機能に対する各治療法の効果をプラセボと比較してみてみると、プラセボよりも効果があったのは、肩関節内ステロイド注射(2.16 [1.52-2.81])、capsular distension(2.89 [1.71-4.06])、体外衝撃波(3.89 [2.80-4.97])、レーザー治療(3.66 [1.65-5.67])といった治療が顕著な差があった。

鍼灸、カルシトニン、マニピュレーションもプラセボと比較して肩機能と疼痛緩和に有意な改善効果を示したが、ストレッチは疼痛緩和ではなく肩機能のみの改善(2.08 [1.05~3.12])に有意な効果を示した。機能のみを改善したもう一つの治療法はヒアルロン酸注射であった。

肩関節機能においても従来の理学療法単独ではプラセボと比較してもあまり改善効果はない(0.69[0.03 – 1.36])ようですね。。

肩関節機能についてプラセボと比較したネットワークメタアナリシスのフォレストプロット。Zhang J.2020より引用、一部改変。

従来の理学療法 vs 関節内注射の比較では、関節内ステロイド注射(1.47 [0.85-2.08])、capsular distension(2.20 [1.04-3.34])のほうが従来の理学療法よりもよりも大きな範囲で肩機能を改善した。

治療法のランキング(SUCRA;surface under the cumulative rankings)

ネットワークメタアナリシスおよび感度分析からのSUCRA;surface under the cumulative rankingsに基づいた各アウトカムに対する治療法のランキングがだされています。次の散布図がSUCRAにもとづいた異なる介入に対する疼痛と機能の治療ランキングの関係を示しており、5つのクラスタが色分けされています。

疼痛と肩機能のアウトカムのSUCRA。散布図は、痛みと肩機能の治療順位の関係を示しており、異なるクラスターを色分けしている。SUCRA, surface under the cumulative rankings. Zhang J.2020より引用、一部改変。

SUCRA値が最も高い最初のクラスター(右上のゾーン)では、疼痛緩和と機能改善を達成する可能性が最も高いものとして、capsular distension、ESWT、レーザー治療が同定された。最高順位は疼痛緩和でcapsular distension、機能改善では体外衝撃波治療がでした。

2番目のクラスター(中間のゾーン)にはステロイド注射が含まれ、次いでステロイド注射とCPTの組み合わせ、capsular distensionとステロイド注射の組み合わせ、マニピュレーションが含まれていた。ストレッチは肩の機能改善に中等度の利益を提供し、痛みの軽減を達成する確率は低かった。NSAIDsの使用は疼痛管理において中等度の効果があったが、機能的な利点は限定的。

従来の理学療法の順位はプラセボの順位に近かった。。

病期(フェーズ)による治療法の効果

この研究の面白いところは病期でサブグループ解析しているところです。これは慧眼。

病期でサブグループ分析を行ったところ、ステロイド注射と理学療法を組み合わせた場合、炎症期ではより多くの効果(肩機能(3.89[2.64-5.15])、外旋可動域(3.52[2.16-4.89])、屈曲可動域(3.09[1.68-4.50])、外転可動域(5.41[4.06-6.77]))が得られたのに対し、拘縮期ではこの組み合わせは疼痛のみを緩和した(2.20[0.86-3.54])。

関節マニピュレーションでは拘縮期でより多くの効果が得られたことが明らかになった。関節マニピュレーションはプラセボと比較して、拘縮期に疼痛(2.00 [0.40-3.61])、機能(1.21 [0.44-1.93])、屈曲可動域(2.26 [0.29-4.26])を改善する効果を持っていた。

ステロイド注射の利点は治療の時期によって異なり、疼痛緩和については治療の初期(1-2ヶ月、2.65 [1.91-3.40]、2-3ヶ月、3.16 [2.35-3.98])ではプラセボよりも多くの効果をもたらし、治療の初~中期(1-2ヶ月、2.71 [1.97-3.44]、2-3ヶ月、3.22 [2.44-3.98]、3-6ヶ月、1.31 [0.14-2.46])では肩関節機能の改善という利点が認められた。しかし、プラセボに対するステロイド注射の有益性は、より長い追跡期間(6ヶ月以上)ではなかった。

その他、患者属性など

全身の合併症に関しては、ステロイド注射は糖尿病のない患者においてプラセボよりも有益であった。また、糖尿病のない患者は、糖尿病のある患者よりも非外科的介入に優れた反応を示した。

女性の割合が50%未満の群では、ステロイド注射と理学療法の併用は、疼痛緩和(4.46[2.58~6.36])、機能スコアの改善(6.69[4.79~8.57])、外転範囲の拡大(5.19[4.13~6.22])において、プラセボよりも高い効果が認められた。女性の割合が50%以上のグループでは有意な効果は認められなかった。

感想・私見

炎症期で疼痛の強い時期には、関節内ステロイド注射とNSAIDSで疼痛コントロールしつつ、疼痛を増悪させない範囲での肩甲帯胸郭など患部外のエクササイズや徒手介入、夜間や日中の良好なポジショニング指導

拘縮期で疼痛は改善してきたが可動域制限が強い時期には、capsular distensionなどの医師の介入に加えて、関節マニピュレーションやストレッチなどで肩の関節可動域拡大と機能改善をはかる

といった流れが良いのかなと思ってます。

後は状況に応じて有酸素運動などの全身運動を励行することも取り入れたりしますかね。

体外衝撃波は当院にないので使ったことがないですが、拘縮期にはいい場合もあるかもしれませんね。今後も研究が増えてくると思われるので徐々に治療効果の評価が定まってくるのではないでしょうか。

難渋することもある肩関節周囲炎ですが、医師と理学療法士が共同して介入することでより良好な改善を得られそうですね。

参考文献

  1. 1.Chaudhury S, Gwilym SE, Moser J, Carr AJ. Surgical options for patients with shoulder pain. Nat Rev Rheumatol. 2010;6:217-226.
  2. Zreik NH, Malik RA, Charalambous CP. Adhesive capsulitis of the shoulder and diabetes: a meta-analysis of prevalence. Muscles Ligaments Tendons J. 2016;6:26-34.
  3. Hand C, Clipsham K, Rees JL, Carr AJ. Long-term outcome of frozen shoulder. J Shoulder Elbow Surg. 2008;17:231-236.
  4. Dias R, Cutts S, Massoud S. Frozen shoulder. BMJ. 2005;331:1453-1456.
  5. St Angelo JM, Fabiano SE. Adhesive capsulitis 2022/05/29. In: StatPearls [internet]. StatPearls Publishing; 2020.
  6. Zhang J, Zhong S, Tan T, Li J, Liu S, Cheng R, Tian L, Zhang L, Wang Y, Liu F, Zhou P, Ye X. Comparative Efficacy and Patient- Specific Moderating Factors of Nonsurgical Treatment Strategies for Frozen Shoulder: An Updated Systematic Review and Network Meta-analysis. Am J Sports Med. 2020 Sep 17:363546520956293. doi: 10.1177/0363546520956293. Epub ahead of print. PMID: 32941053.

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