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肩甲骨の位置異常をどう修正するか? ~肩甲骨の位置異常と肩関節後方タイトネスの関係~

Study

肩関節疾患の理学療法をする際に肩甲骨のポジションチェックしますよね。今回は、肩甲骨の位置異常(scapula malposition)と肩関節後方タイトネスの関係についての面白い論文を読んだので紹介します。

肩甲骨の位置異常(scapula malposition)が肩関節疾患の発症と関連することが報告されています。代表的な位置異常は次の3つ。

  • 肩甲骨上方回旋の低下
  • 肩甲骨内旋の増加
  • 肩甲骨前傾の増加

肩甲骨内旋に関して次のような研究があります。Burkhartら1)は、posterosuperior labral tearを有する64人の患者を対象に肩甲骨の運動異常(scapular dyskinesis)を調査した。64人の患者のうち61人(95%)に肩甲骨内旋と肩甲骨前方突出(scapular protraction)の結果として肩甲骨内側縁の膨隆が認められた。また、cadaverを用いた生体力学的研究では、肩甲骨内旋の増加は、インターナルインピンジメントに関連して大結節と肩甲骨関節窩の間の圧力を増加させ、それにより挟み込まれた肩腱板筋腱と上関節唇損傷のリスクを増加させることが示された2)

肩甲骨上方回旋の低下は、肩峰下インピンジメント3)またはインターナルインピンジメント2)を引き起こす可能性が報告されています。

肩関節後方タイトネスは野球などオーバースロー動作の多いスポーツを行うアスリートでよくみかける肩関節の機能異常ですが、後方タイトネス自体が肩甲骨位置異常にも関わっているのでは?という疑問に答えてくれるのが次の論文4)です。この論文とても興味深かったです。

▸目的
肩甲骨の位置に対する肩後方関節包タイトネス、肩後方腱板筋タイトネスの影響を調査すること

▸方法
新鮮な凍結状態の男性5名のcadaverから採取した10肩を使用。
0°、45°、90°の肩外転で、上腕骨回旋角度を最大外旋、中間位、最大外旋にした際の肩甲骨の上方/下方回旋、内/外旋、前/後傾、および肩甲骨と背骨の距離を測定。各肩は4つの条件で測定を実施。各条件は1) 処置なし(intact)、2) 後方腱板筋(棘下筋と小円筋)のみの締め付け(muscle tightness)、3) 後方腱板筋と後方関節包の両方の締め付け(muscle and capsule tightness)、4) 後方関節包のみ締め付け(capsle tightness)。疑似的な後方タイトネスを糸(suture anchors)によって作っている感じです。

▸結果

  • 肩関節外転0°最大内旋では、Muscle tightnessによって肩甲骨前傾が増大
Mihata2019 4)より引用 一部改変
  • 肩関節外転90°最大内旋では、Muscle tightnessによって肩甲骨上方回旋が低下
Mihata2019 4)より引用 一部改変
  • 肩関節外転90°最大内旋では、capsule tightnessによって肩甲骨内旋が増加
Mihata2019 4)より引用 一部改変
  • 肩関節外転90°最大外旋では、capsule tightnessによって肩甲骨内旋が増加
Mihata2019 4)より引用 一部改変

まとめると後方のMuscle tightnessは主に上方回旋低下と前傾に影響し、後方関節包タイトネスは内旋の増加に影響するようです。

  • 肩甲骨上方回旋に関して
    後方のMuscle tightnessは45°または90°の肩外転時の最大肩内旋のみで上方回旋を有意に減少させた(P<0.05)が、後方関節包 tightnessは上方回旋に影響を与えなかった(P=0.09~0.96)。
  • 肩甲骨内旋に関して
    後方関節包タイトネスは肩甲骨内旋を有意に増加させたが(P<0.01)、後方のMuscle tightnessは肩甲骨内旋を変化させなかった(P=0.62~0.89)。

ここからは私の雑感です。

私は基本的には下記の流れで肩甲骨の位置異常を修正する治療戦略をとっています。

  1. 脊柱と胸郭のアライメントと可動性を確認し必要に応じて修正するためのアプローチをする
  2. 肩甲骨下方回旋と前傾に関わる筋(肩甲挙筋、大小菱形筋、小胸筋)をストレッチやリリース
  3. 上方回旋と後傾に関わる筋(前鋸筋、僧帽筋中部~下部)をエクササイズなどを通して促通する

ただ上記の流れだけでは、なかなか修正できないケースも多いです。肩甲骨に関わる骨関節や筋の多様さ、運動の複雑さを考えるとそんな単純な話ではないのはあたりまえといえばそうなのですが。特に肩関節後方タイトネスがあるアスリートや結帯制限の強い肩関節周囲炎などの拘縮肩の場合は修正に時間を要することを経験します。 

肩関節外転0°最大内旋位は、結帯位に近い肢位ですが、後方腱板筋(棘下筋、小円筋)のタイトネスがあると肩甲骨前傾が増大する結果でした。臨床で女性のほうが肩甲骨前傾が修正しにくい印象を持っていたのですが、もしかすると女性の場合は下着の着脱の時に結帯位をとることがあるので、後方筋群のタイトネスがある場合に男性より肩甲骨前傾となる頻度が日常生活で多いことも影響していたのかもしれません。
なので、結帯位で肩甲骨前傾が増大する場合は、棘下筋or小円筋のタイトネスの存在を考慮して筋に対してのアプローチを行うことが、肩甲骨位置異常の改善につながる可能性があります。
一方、肩甲骨が全体的に内旋方向へ変位している場合は、後方関節包のタイトネスを考慮してストレッチの方法などを指導する必要がありそうです。

臨床的示唆にあふれた論文でした。肩甲骨ポジションの評価や肩関節疾患の治療に活かせそうです。

参考文献
1. Burkhart SS, Morgan CD, Kibler WB. The disabled throwing shoulder: spectrum of pathology. Part III: the SICK scapula, scapular dyskinesis, the kinetic chain, and rehabilitation. Arthroscopy 2003;19: 641-61.
2. Mihata T, Jun BJ, Bui CN, Hwang J, McGarry MH, Kinoshita M, et al. Effect of scapular orientation on shoulder internal impingement in a cadaveric model of the cocking phase of throwing. J Bone Joint Surg Am 2012;94:1576-83. https://doi.org/10.2106/JBJS.J.01972
3. Ludewig PM, Cook TM. Translations of the humerus in persons with shoulder impingement symptoms. J Orthop Sports Phys Ther 2002;32: 248-59. https://doi.org/10.2519/jospt.2002.32.6.248
4. Mihata T, McGarry MH, Akeda M, et al. Posterior shoulder tightness can be a risk factor of scapular malposition: a cadaveric biomechanical study. J Shoulder Elbow Surg. 2020;29(1):175‐184. doi:10.1016/j.jse.2019.05.040

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