腱中部のアキレス腱炎(Midportion Achilles tendinopathy)のAmerican Physical Therapy Association(APTA)による臨床実践ガイドライン1)が2018年改訂されていたので読んでみました!
腱中部のアキレス腱炎は下肢のオーバーユースによる軟部組織損傷に分類されます。アスリートやアクティブな活動をしている方で生じやすく,長引くアキレス腱の痛みに悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
エリートサッカー選手の1シーズンでの有病率は2.1~5.1%といった報告2)や,経験の少ないランナーを対象とした前向き研究にて対象者の7%にアキレス腱炎が進行したといった報告3)があります。その他,40-59歳にてアキレス腱炎と診断されている患者が多いということでやや発症年齢が高めで性別の差がない4)のも特徴的ですね。
ガイドラインの推奨グレードは下記のようになっています。
- A:強いエビデンス
- B:中等度のエビデンス
- C:弱いエビデンス
- D:不一致のエビデンス
- E:理論上/基礎的なエビデンス
- F:専門家の意見
ざっとガイドラインの中身をまとめてみましょう。
腱中部のアキレス腱炎の診断と分類
臨床所見 – C
- 徐々に発生した痛み
- アキレス腱の停止部から2-6cm近位の痛み
- Arc sign陽性
- Royal London Hospital test陽性
急性期
- 発赤,熱感,腫脹あり
- 発症から3ヵ月以内
- 歩行などの軽負荷でも強い痛み
慢性期
- 発赤,熱感,腫脹なし
- 発症から3ヵ月超え
- ジャンプやランニングなどの高負荷の活動中や後に痛み
評価/Assessment
患者立脚型評価指標 – A
- Victorian Institute of Sport Assessment-Achilles(VISA-A) →疼痛と固さ
- Foot and Ankle Ability Measure(FAAM) or Lower Extremity Functional Scale(LEFS) →活動と参加の制限
身体機能障害の測定 – B
- 足関節背屈角度
- 距骨下関節の角度
- 足関節底屈筋力と持久力
- 静止アーチ高
- 前足部のアライメント
- 触診での痛み
パフォーマンステスト – B
- ホップテスト
- Heel-raise endurance test
治療/Intervention
急性期の治療
疼痛と炎症に対して
- デキサメタゾン(ステロイド系抗炎症薬)のIontophoresis – B
可動性の低下に対して
- 足関節底屈筋のストレッチ – C
- 関節と軟部組織のモビライゼーション – F
痛みのある動きに対して
- テーピング固定 – F
その他
- 患者教育 (痛みの耐えられる範囲で活動を継続すること) – B
- Counseling (セオリー,リスク因子,回復までの行程)– E
慢性期の治療
エクササイズ
- 遠心性負荷エクササイズ,もしくは,Heavy load and slow speed exercise – A
- エクササイズは疼痛が許容できる範囲内で少なくとも2回/週行うべき – F
可動性の低下に対して
- 足関節底屈筋のストレッチ – C
- 関節と軟部組織のモビライゼーション – F
痛みのある動きに対して
- テーピング固定 – F
下肢の筋骨格またはバイオメカニクスの異常に対して
- 下肢の機能障害に対する神経筋エクササイズ – F
その他
- 患者教育 (痛みの耐えられる範囲で活動を継続すること) – B
- Counseling (セオリー,リスク因子,回復までの行程) – E
体外衝撃波や多血小板血漿(PRP)は,理学療法の範囲外として,今回のガイドラインの推奨に入ってこないようですね。フローチャートでは理学療法で行うエクササイズなどで改善がなければ検討するくらいの位置づけになっています。PRPは今後も報告が増えてくると思うので,動向に要チェックですね。
やはり基本は,遠心性負荷のプロトコルを導入しつつ,その他の身体機能障害があればそれを改善していくといった方針が良いのかなと思います。遠心性負荷のプロトコルやHeavy load and slow speed exerciseなどエクササイズはいろいろと報告されていて概ねどれも効果があるようですね。複数のプロトコルのメタアナリシスなど今後出てくるのが楽しみです。
参考文献
1. Robroy L. Martin, Ruth Chimenti, Tyler Cuddeford, Jeff Houck, et al. Achilles Pain, Stiffness, and Muscle Power Deficits: Midportion Achilles Tendinopathy Revision 2018. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 2018; 48 (5) , A1–A38. DOI: 10.2519/jospt.2018.0302
2. Maffulli N, Wong J, Almekinders LC. Types and epidemiology of tendinopathy. Clin Sports Med. 2003;22:675-692.
3. Nielsen RO, Rønnow L, Rasmussen S, Lind M. A prospective study on time to recovery in 254 injured novice runners. PLoS One. 2014;9:e99877. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0099877
4. Yasui Y, Tonogai I, Rosenbaum AJ, Shimozono Y, Kawano H, Kennedy JG. The risk of Achilles tendon rupture in the patients with Achilles tendinopathy: healthcare database analysis in the United States. Biomed Res Int. 2017;2017:7021862. https://doi.org/10.1155/2017/7021862
コメント