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長生きに重要なのは、脂肪ではなく筋肉だ!Fat but powerful paradox(“太っているがパワフル”パラドックス)について

フレイル

タイトル、脂肪より筋肉が長生きに大事なのは当たり前だろ!って感じですね。”太っていても健康で長生き”ということはここ数年の研究で報告されるようになっていて、私も高齢の方と話すときに太っていてもいいんですよ!って伝えるようにしてます。

過去の研究から、肥満や代謝性疾患があっても心肺機能が十分であれば、肥満や代謝性疾患がなく心肺機能が低い人と比較して死亡リスクが低下するため、適切な体力を身につけることが重要であることがわかっています1)。これは、「太っているが健康である」というパラドックス(fat but fit paradox)として表現されています2)。他の研究でも、高齢になっても十分な心肺機能を維持することで、全身の脂肪率や腹部脂肪率とは無関係に全死因死亡リスクが低下することを明らかされました3)

これらの研究は[心肺機能]に着目して高齢者の健康との関連をみています。心肺機能の評価はある程度の運動負荷をかけて測定する必要があるので臨床や地域の場面で気軽に検査できないという課題があります。測定することが広く普及するためには簡便さは大事です。

心肺機能以外で高齢者の健康と関連するほかの要素はあるのでしょうか?

実は、心肺機能以外の体力の構成要素のうち、筋のパワー(力と速度の積)は、心肺能力よりも高齢者の機能状態に強く関連するという報告があります4)

幸いにも、筋力は椅子とストップウォッチがあれば数秒で実施できる30秒間立ち座りテスト(30 sec Sit to stand test; STS test)の結果から下肢の筋パワーを算出できるという話があります5,6)。計算式は下記のようで、椅子の高さから立位まで体重を移動させる立ち上がりに使う正の下肢筋パワーを計算します。

参考文献6より引用 一部改変

重力加速度が入ったり、体重から下腿の質量抜くために0.9をかけたり、身長を半分にしたりとやや複雑で一見理解しがたい。そして実際の仕事率とはずれが生じるとは思いますが細かいことを気にせずになかなかの力業で出してきたな、感じです。この指標は最大歩行速度の関連が高いようです。

立ち座りテストから算出できる下肢筋パワーを用いて、高齢者において特に健康と関連性があると思われる体力要素の筋力を考慮しながら、「太っているが健康である」というパラドックスを検討した面白い研究が報告されたので紹介します7)

目的
  1. 肥満度と筋力の組み合わせが異なるスペインの非施設入所高齢者の代表サンプルを用いて、全死因死亡リスクを評価・比較すること。
  2. 筋力を考慮した場合、「太っていても健康である」というパラドックスが生じるかどうかを判断すること。
研究結果の要点
  • 十分な筋力のある高齢男女は、筋力の低い高齢男女と比較して、肥満度、ウエスト周囲径、体脂肪率に関係なく、9年生存率が高い
  • 脂肪指数(身長の2乗で標準化した体脂肪量)による肥満は、高齢者の十分な筋力によってもたらされる生存利益を軽減させた
  • 脂肪指数ではなく、BMI、ウエスト周囲径、体脂肪率で肥満を評価した場合、「太っていても健康である/体力がある」パラドックスが確認された
  • 高齢者において、低い相対的パワー(体重で正規化したパワー)は、9年間の全死因死亡の独立した予測因子
  • 脂肪指数(Fat index)は筋力があること生存利益を軽減する唯一の肥満マーカーであったため、他の肥満指標よりも脂肪指数の評価を優先すべきである
  • 脂肪と筋力の二項対立では、高齢者の死亡を防ぐという点で、筋力の要素が最も重要視されるべきである
  • 低い相対パワーの評価は、身体能力への有害な影響を示すこれまでのエビデンスと、高齢者における全死因死亡率への有害な影響を示す新しいエビデンスを考慮すると、日常臨床において強く推奨されるべき
研究デザイン

prospective cohort study

方法

対象者:

スペインのEXERNET多施設共同研究の地域在住高齢者(65~91歳)2563名(男性602名、女性1961名、すべて白人)

肥満に関連する因子: 

Body Mass Index;BMI、ウエスト周囲径、体脂肪率(%)、Fat index;脂肪指数(下記)

男女別に肥満の識別は、BMI:≧30 kg/m2(男女とも)、ウエスト周囲径:≧101cm(男性)、≧88cm(女性)、体脂肪率: 男性31%以上、女性43%以上、脂肪指数:≧9.05 kg/m2(男性)、≧13.06 kg/m2(女性)。

筋力に関する因子:

30秒立ち座りテストを実施し、前述したパワーを算出する計算式を使用して下肢筋パワーを算出。この式です↓。

参考文献6より引用 一部改変

その値は身長の高さと正の関連があるので身長の 2 乗で割って正規化したallometric musucle power(アロメトリックパワー)8)体重で割って正規化したrelative muscle power(相対パワー)を算出。相対パワーはアロメトリックパワーをBMIで正規化した値というようにとらえることもできる(身長の2乗で除した部分が相殺されるため)。

アロメトリックパワーは、男性では<75.4 W/m2、女性では<61.5 W/m2 (各性別の五分位の最下位)をカットオフとして、カットオフポイント同等以上の値は正常、未満は弱いとした。

相対パワーは、男性では<2.6W/kg1、女性では<2.1 W/kg1 ( 各性別の五分位の最下位 )と定義し、 をカットオフとして、カットオフポイント同等以上の値は正常、未満は弱いとした。さらに、高い相対的筋力は、男性では値が ≥4.0W/kg1 、女性では3.2≥W/kg1 とした。

その他共変量:

年齢、性別、高血圧、喫煙状況、1日の歩行・座位時間

全死因死亡率の記録:

中央値で8.9年の追跡期間中に記録された。

参加者は、痩せ型で力強い、痩せ型で弱い、太り型で弱い、の4群に分類。

Cox比例ハザード回帰モデルおよび調整済みHRを算出した。

結果

9年間のフォローアップを完了した参加者のうち、合計で215名(9.3%)が死亡(男性86名(15.8%)、女性129名(7.3%))。

アロメトリックパワーと肥満度に関するグループ間の全死因死亡率の比較を示した生存プロットの推移が下記の図。これを見るとLean + PowerfulとFat +Powerfulの生存率は高く、Lean + Weak、Fat + Weakの順に生存率が下がる傾向にある。

文献7より引用 9年間の追跡期間中の肥満度およびあろメトリックパワーの異なるグループの生存確率


等尺性筋力とBMIのグループの中で、HRは は、F+Pで全死因死亡率が有意に減少した(HR (95% CI) 0.55 (0.31 to 0.98); p=0.044) および L+P (HR (95% CI) 0.57 (0.33 to 0.98); p=0.043) 群と比較した場合。

アロメトリックパワーと各肥満度の指標における群間の全死因死亡率のハザード比の比較を見たのが下記の図。Fat + Weak群をレファレンスとしてハザード比を比較しています。

ポイントはどの肥満の指標による分類でもpowerful群において死亡率の低下が認められ、その傾向はLean + powerfulにおいて顕著ということ。加えてFat indexによる分類ではLean + Powerfulのみが有意に死亡率の低下が認められた(HR(95% CI)0.50(0.25~0.99);p=0.049)ということです(Fat + powerfulは有意ではない)。

文献7より引用 アロメトリックパワーと各肥満度の指標における群間の全死因死亡率のハザード比の比較. 
BMI(A)、ウエスト周囲径(B)、体脂肪率(C)、脂肪指数(D)

相対筋力の全死亡率への影響
相対筋力が高いほど、年齢、性別、高血圧、喫煙、歩行・座位時間とは独立して、高齢者の死亡リスクが有意に低下した(HR (95% CI) 0.78 (0.63 to 0.97); p=0.025 )。さらに、相対筋力が正常な参加者(HR(95%CI)0.60(0.42~0.86);p=0.006)、相対筋力が高い参加者(HR(95%CI)0.52(0.32~0.86);p=0.011)には、相対筋力の低い参加者と比べて全死亡率の著しい低下が認められた(下記図)。

文献7より引用 相対筋力の異なる群における生存確率(A)および全死因死亡率のハザード比(B)
結論

十分な筋力があるパワフルな高齢者は、肥満の有無(BMI、ウエスト周囲径、体脂肪率)にかかわらず、9年間の全死因死亡率の低下を示した。脂肪指数(Fat index)による肥満分類された群は、パワフルであることの生存利益を鈍らせた。つまり筋力があることによる生存率の向上は肥満の状態によって打ち消されることがわかった。

「太っていても体力がある/力がある」というパラドックスは、脂肪指数を指標として再検討されるべきであろう、とのこと。

あと、椅子立ち上がり筋力テストで評価した相対的パワー(W/kg)の低さは、スペインの非施設高齢者の代表サンプルにおいて、9年間の全死因死亡率の独立したリスク因子であった。

相対パワーは、アロメトリックパワーとBMIを組み合わせたものと考えることができるのでより機能的に関連したアウトカムである9,10) とのことでした。

感想

生存率を高くするためには、筋力がありパワフルであることが必要条件であって、肥満であることは必要ではないということなので、つまり「細マッチョ」が最強ということですかね。

サルコペニアの診断でも使われる指標との関連が気になります。今回の研究では筋量を計測していないようなので、骨格筋量やSkeletal muscle index(SMI)といった指標と相対パワーの関連がわからない。

あと5回立ち上がりテストでもパワー算出できるのかどうか?30秒立ち座りはけっこうきついテストなのでできれば5回立ち上がりでも計算できるといいですね。これもサルコペニア診断でも使用しますし。そのあたりの妥当性とかすでに検証されているのかな?

今回使用されている椅子立ち上がりテストを使用したパワー算出は計算式が若干ややこしいですが、この指標が今後流行って主流になるかどうか。ややこしい指標は主流になりにくい感じがしますがどうでしょうね。私も使ってみてどんなもんかやってみたいと思います。あとは日本人のデータ集めて基準を作成してみたいですね。過去の立ち上がりの研究やっていた方のデータとかあればすぐにできるかも?

メタボ検診で今回の脂肪指数も使ってほしいですね。あとは脂肪の評価だけでなく筋量および筋力についての評価を入れて、中年期からフィードバックしたほうが長期的な健康維持のために有用なのではないだろうかと思いました。

参考文献

1 Ortega FB, Lavie CJ, Blair SN. Obesity and cardiovascular disease. Circ Res 2016;118:1752–70.

2 Ortega FB, Ruiz JR, Labayen I, et al. The Fat but Fit paradox: what we know and don’t know about it. Br J Sports Med 2018;52:151–3.

3 Sui X, LaMonte MJ, Laditka JN, et al. Cardiorespiratory fitness and adiposity as mortality predictors in older adults. JAMA 2007;298:2507–16.

4 Foldvari M, Clark M, Laviolette LC, et al. Association of muscle power with functional status in community- dwelling elderly women. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2000;55:M192–9.

5 Alcazar J, Losa- Reyna J, Rodriguez- Lopez C, et al. The sit- to- stand muscle power test: an easy, inexpensive and portable procedure to assess muscle power in older people. Exp Gerontol 2018;112:38–43.

6 Alcazar J, Kamper RS, Aagaard P, et al. Relation between leg extension power and 30-
s sit- to- stand muscle power in older adults: validation and translation to functional performance. Sci Rep 2020;10:16337.

7 Alcazar J, Navarrete-Villanueva D, Mañas A, Gómez-Cabello A, Pedrero-Chamizo R, Alegre LM, Villa G, Gusi N, González-Gross M, Casajús JA, Vicente-Rodriguez G, Ara I. ‘Fat but powerful’ paradox: association of muscle power and adiposity markers with all-cause mortality in older adults from the EXERNET multicentre study. Br J Sports Med. 2021 Nov;55(21):1204-1211.

8 Losa- Reyna J, Alcazar J, Rodríguez- Gómez I, et al. Low relative mechanical power in older adults: an operational definition and algorithm for its application in the clinical setting. Exp Gerontol 2020;142:111141.

9 Alcazar J, Rodriguez- Lopez C, Ara I, et al. The force- velocity relationship in older people: reliability and validity of a systematic procedure. Int J Sports Med 2017;38:1097–104.

10 Alcazar J, Rodriguez- Lopez C, Ara I, et al. Force- Velocity profiling in older adults: an adequate tool for the management of functional trajectories with aging. Exp Gerontol 2018;108:1–6.

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