運動器疾患や術後のリハビリテーションにおいて、しばしば重度の関節拘縮のケースをみることがあります。外傷後や術後もありますが、五十肩において生じる凍結肩(癒着性関節包炎)なども多く経験するところです。こういったシビアな関節拘縮に関与している病態として関節の線維化というのがあります。関節線維化についてまとめられた論文1)を読んだので理学療法に関わり合いのありそうなところの要点を書き留めておきます。まだまだ分かっていないことも多く、予防や治療法においても確立されていないのが現状のようです。
関節線維化(arthrofibrosis)とは?
関節線維化 (arthrofibrosis) とは、過剰なコラーゲン産生と関節の運動制限や痛みをもたらす癒着を特徴とする線維性関節疾患であり、ほとんどの関節で発症し、五十肩、癒着性関節包炎、関節拘縮、膝関節拘縮、肘関節拘縮など多くの名称で呼ばれている。
関節内に形成される瘢痕組織は、細胞外マトリックス(extracellular matrix;ECM)として知られ、主にコラーゲンから構成されている。瘢痕組織は、関節包内の癒着を形成し、関節周囲の腱や滑液包を収縮させ、関節の屈曲・伸展を制限する。さらに、瘢痕化した滑液包が関節を刺激し、さらなるを炎症を引き起こす可能性がある。関節可動域(ROM)の減少とともに、痛みや腫れが生じる。
関節線維化と呼ばれるものは、2つの異なる状態である可能性を著者らは提示している。
- ECM形成と炎症が正のフィードバックループによって連続的に進行する活発な状態。
- 残存関節線維症:ECMが存在するため関節のROMは制限されているが、炎症とECMの沈着の活動期は解消している状態。
関節線維化は手術が原因とされることが多いが、ケガが原因の場合もある。特に五十肩は原因がわからないことが多いが、小さなケガを長い間繰り返していたり、関節に負担がかかり続け構造物が損傷していることが原因である可能性がある。

関節線維症は稀な手術の合併症であると言われることがあるが、報告によっては膝関節全置換術(TKA)やACL再建術ではよく見られる合併症であると説明され、ACL再建術後の関節線維症の発生率は2%から35%、TKA後は0.2%から10%と推定されており、15%という報告もある。
関節線維化が生じる機序
手術や外傷などの刺激により低酸素状態になると、細胞内のインフラマソーム (inflammasome) が活性化し、活性酸素、血小板由来成長因子(PDGF)、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)、さまざまな炎症性サイトカインや仲介物質が産生される。これらは免疫細胞を活性化し、さらに炎症を引き起こし、線維芽細胞を刺激して、線維化の主要な媒介者である筋線維芽細胞に分化する一連の現象を引き起こす(炎症がさらに線維芽細胞を刺激して線維化が進むというフィードバックループになる)。
TGF-βは、線維芽細胞の増殖と分化を促し、細胞外マトリックス(ECM)の産生を増加させ、このプロセスにおいて中心的な役割を担っている。また、TGF-βは活性酸素の産生を誘導し、T細胞の分化と増殖を制御している。マクロファージが産生するNuclearfactor kB(NF-κB)は、TGF-βにより誘導される多くの炎症性サイトカインと同様に活性化される。PDGFは、筋線維芽細胞の移動、増殖、生存を促進し、線維芽細胞によるTGF-β合成を増加する。マクロファージによるIL-1βの産生は、さらにインフラムマソームを刺激する。機械的な力やストレスもまた、線維芽細胞を変化させ、筋線維芽細胞へと分化させる。筋線維芽細胞内のα-平滑筋アクチン線維は、筋線維芽細胞表面の接着複合体とくっつき、ECMや他の細胞に接着し、収縮力を発生させる。時間の経過とともにECMや接着斑の架橋はより複雑になり、さらなる組織収縮が起こる。筋線維芽細胞はアポトーシスに抵抗し、TGF-βを分泌して自己を維持することができる。
炎症が関節線維化の発症にかかわっているため、積極的な運動は関節線維症を発症させたり、悪化させたりする可能性がある。運動は炎症性サイトカインの増加、コラーゲン生成、TGF-β50,51などの炎症反応を引き起こし、線維症の制御を異常にする因子となるため。リハビリの際に「痛みを我慢する」ように指示されたり、より激しい運動をした後に症状が始まった、または著しく悪化したという報告もある。
関節線維化の治療法
治療法についてはまだ確立されてない。投薬、手術、理学療法、食事療法などいろいろな報告あり。薬については新しい薬も出てきているよう。手術と理学療法に関して抜粋してみる。
Surgical approaches
- 関節鏡下でのECMの溶解とデブリードメント
癒着とECMを除去することで、長期的なROMを増加させることができる。
炎症反応と線維症の悪化による有害な転帰や感染症、血栓のリスクあり。
- 麻酔下でのマニピュレーション
癒着破壊は長期的なROMを増加させることができる。
炎症反応と線維症の悪化による有害事象のリスク。異所性骨化、骨破壊、人工関節の損傷、靭帯断裂、血栓などのリスク。
- Open surgery
癒着やECMを除去することで、長期的なROMを増加させることができる。
炎症反応と線維症の悪化による有害な転帰のリスク。
Physical therapies
- Bracing(装具による固定)
一時的な固定が治癒に必要な場合がある。
運動不足による癒着形成のリスクあり。
- 運動療法、リハビリテーション
筋力とROMを向上させる。強度は、個人差のある炎症の程度に応じて調整する必要がある。
限度を超えると炎症や線維症を悪化させる危険性がある。
- Continuous passive motion
まだ議論の余地がある。MUAの回避に役立つかもしれないが、関節線維症の患者の方がより有益であると思われる。
強制的な過屈曲による腱や靭帯の損傷を防ぐために、うまくコントロールする必要がある。
無菌性膝関節炎の発症段階とそれに対応する臨床的特徴、危険因子、現在の対処法についてを一覧にしたのが下の表。
病態 | 臨床的特徴 | リスクファクター | 現在の対処方法 |
炎症反応、TGF-βの発現が増加 |
痛み、赤み、腫れ |
手術や怪我 |
-挙上とアイシング -コルチコステロイド -アスピリン |
筋芽細胞とECMの増殖 |
硬さや可動域制限 |
手術や怪我 | |
炎症やTGF-βのシグナルの調節障害、関節周辺のECM過剰、癒着と収縮、 エピジェネティック変化 | 持続する痛みとROM制限、一般的に軽度の腫れを伴う。歩行の異常 |
-過去の手術 変異による過剰なTGF-βや炎症 女性? 早期発症のOA 炎症性および 自己免疫疾患 | -デイリーCPM -運動によるリハビリテーション -炎症の抑制 –麻酔科マニュピレーション -手術で癒着の解消とECMの除去 |
感想
関節線維化についてしっかりまとめられた論文を読んだことがなかったのですが、まだまだ分かっていないことが多いようです。炎症や病態に関する生化学的な記述は難しかった。。
関節炎症や痛みが強いケースに線維化が起こりやすく、炎症が強い時期にそれを悪化させるような理学療法介入は要注意ということは言えそうです。
非常なシビアな関節拘縮は改善に長い時間を要することもあり、改善が難しいケースもあり、今後の予防や治療に関する発展に期待したいところです。
参考文献
- Usher KM, Zhu S, Mavropalias G, Carrino JA, Zhao J, Xu J. Pathological mechanisms and therapeutic outlooks for arthrofibrosis. Bone Res. 2019 Mar 26;7:9. doi: 10.1038/s41413-019-0047-x. PMID: 30937213; PMCID: PMC6433953.
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