前十字靭帯(ACL)断裂の治療は、早期に手術で靭帯の再建術を行いその後リハビリテーションでスポーツの復帰を目指す場合と、リハビリテーションなどの保存療法で手術をせずに治療し、膝折れなど持続的な不安定性がある場合は再建術を行う場合があります。
早期にACL再建手術の利点としては、受傷から手術までの時間が短縮され、二次的な半月板損傷が少なくなり復帰までの時間短縮や関節の状態を良好に保つことができる可能性がありますが、すべての患者に早期ACL再建を行うと、ACL再建を必要としない可能性のある患者に手術が行われることになってしまいます。そこで、どの患者で保存療法が成功し、どの患者でACL再建が必要となるので早期に外科的治療を受けた方が良いかを評価することが重要です。
今回は、前十字靭帯(ACL)断裂後に保存療法で良好な結果となる患者の特徴を明らかにすることを目的とした後ろ向き調査の論文1)を紹介します。

▸研究デザイン; 後ろ向きコホート研究、エビデンスレベル 2
▸方法
ひとつの病院で2014年から2017年の間の全ACL損傷患者を対象。初期治療の方法(保存 or 手術)と最終的なACL再建について検討。フォローアップ期間は2年。一変量解析はMann-Whitney U検定とカイ二乗検定を用い、多変量解析は二項ロジスティック回帰を用いた。
▸結果
448名の患者が対象となった。年齢の中央値26.1歳(範囲19.1-40.5 years)、平均Tegner level6.4(範囲6-7)。、、ってよくみるとTegner level6と7の人しかいなかったんですね。もう少し高いレベルと低いレベルの人がいるかと思ってました。
参考までにTegner activity level2)は下記のような感じです。(日本語訳はブログ著者)
Tegner Level | 参加内容 |
---|---|
レベル 10 | 競技スポーツ – サッカー、アメリカンフットボール、ラグビー(国内エリート) |
レベル 9 | 競技スポーツ – サッカー、アメリカンフットボール、ラグビー(下位部門)、アイスホッケー、レスリング、体操、バスケットボール |
レベル 8 | 競技スポーツ – ラケットボール、スカッシュ、バドミントン、陸上競技(ジャンプなど)、ダウンヒルスキー |
レベル 7 | 競争のスポーツ – テニス、ランニング、モーターカーのスピードウェイ、ハンドボール レクリエーションスポーツ – サッカー、アメリカンフットボール、ラグビー、アイスホッケー、バスケットボール、スカッシュ、ラケットボール、ランニング |
レベル 6 | レクリエーションスポーツ – テニス、バドミントン、ハンドボール、ラケットボール、ダウンヒルスキー、ジョギング(週5回以上) |
レベル 5 | 仕事 – 重労働(建設など) 競技スポーツ – 自転車、クロスカントリースキー レクリエーションスポーツ – 週2回以上の不整地でのジョギング |
レベル 4 | 仕事 – 中程度の重労働(トラックの運転など) レクリエーションスポーツ – サイクリング、クロスカントリースキー、週2回以上の平らな地面でのジョギング |
レベル 3 | 仕事-軽労働(看護など 競技・レクリエーションスポーツ-水泳、森の中を歩くことが可能 |
レベル 2 | 不整地での歩行は可能だが、バックパックやハイキングは不可能 |
レベル 1 | 仕事 – 座り仕事(秘書など) |
レベル 0 | 膝のトラブルで病気休暇や障害年金 |
初診時には210例(47%)が保存療法を選択し理学療法を受け、そのうち126例(60%)が最終的にACL再建を必要とした。
保存療法選択群のうちは2年以内に再建術へ移行したのは、
- 25歳未満の患者の88.9%、25~40歳の患者の56.0%、40歳以上の患者の32.9%
- Tegner level3~6の患者の41.9%、Tegner level7~10の患者の82.8%
多変量解析において保存療法失敗の予測因子は、
- 年齢が25歳未満(オッズ比[OR]、7.4;P < 0.001)
- Tegner levelが高い(level 7以上)(OR、4.2;P < 0.001)
保存療法失敗群の患者は、初期に再建術を選択した群よりも診断から手術までの期間が長く(6.2ヵ月 vs 2.2ヵ月;P < 0.001)、手術時に新たな半月板損傷を損傷していること多かった(17.4% vs 3.1%;P < 0.001)。
Kaplan-Meier生存曲線でみると、年齢層別、Tegner level層別のどちらもきれいに傾向がわかれています。


結論としては、25歳以下 or 負荷の高いスポーツに参加している患者は早期の靭帯再建手術を選択したほうが良く、それ以外の場合においては保存療法で手術を回避できる可能性があるということになります。
私自身の経験としても、Tegner level 7以上では年齢に関わらず再建したほうが良いように感じています。レクレベルの場合は保存でも行ける場合がありますが、膝折れを繰り返すとやはり半月板の損傷を起こすことが増えるので、それが手術を先延ばしにする場合の最大の懸念になります。特に若いころに受傷した場合は、早期手術が良いですね。ただし、手術自体の身体の負担や日程的な調整の必要もありますし、術後のリハビリテーションもスポーツ復帰まで8~12ヵ月以上かかるので、手術を避けられるなら避けたいというのが患者さんの本音です。今回の研究結果を参考にすると、25歳以上で負荷の高いスポーツをやらない場合は、まず保存療法(リハビリテーション)で経過をみるという方針が良いのでしょうね。ただ、長期的(5-10年くらいのスパン)な膝の機能的や活動レベルの予後を調査しているわけではないのでそのあたりも気になります。
参考文献
1) van der List JP, Hagemans FJA, Hofstee DJ, Jonkers FJ. The Role of Patient Characteristics in the Success of Nonoperative Treatment of Anterior Cruciate Ligament Injuries. Am J Sports Med. 2020;48(7):1657-1664. doi:10.1177/0363546520917386
2) Tegner Y, Lysholm J (1985) Rating systems in the evaluation of knee ligament injuries. Clin Orthop Relat Res 198:43–49
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