高校や大学のハードな部活動で慢性的に脚や肩などの痛みを抱えていた方も多いのではないでしょうか。私も高校野球の長時間の練習で慢性的にどこかしらを痛めていた時期がありました。トレーニング量が多すぎるとケガをしてしまうのはなんとなくイメージができます。
逆にトレーニング量が少なすぎてもケガをしやすくなることがわかってきています。特にトレーニング量が少ない状態から急に負荷を上げた時にケガが発生しやすいようです。今回は,トレーニング量とケガに関する研究を紹介します。
負荷をかけたトレーニング直後には,身体の負荷に対する許容能力は一時的に低下しますが,適切な回復によって元のレベルよりも高いレベルまで向上することができます。
しかし,負荷が多すぎて適切な回復をする時間が少ないと,過度なトレーニングにより身体の負荷に対する許容能力は低下してしまします。
じゃあどの程度のトレーニング負荷が適切なのか?という疑問がわいてきます。
Gabbettら2) は2016年の”The training-injury prevention paradox: should athletes be training smarter and harder?”という論文の中でトレーニングとケガの関係についての総説を出版しました。全体としてとても興味深いのですが,要点としては下記のような感じです。
- トレーニングはケガに対する”ワクチン”となる
- 身体的にハードな(そして適切な)トレーニングは身体の質を高めて,ケガから守ってくれる
- トレーニング強度のモニタリングはノンコンタクトのケガを減らすひとつの良いアプローチ
- 運動量の減少は必ずしもケガから守ってくれない
- ノンコンタクトのケガはトレーニングそのものによるではなく不適切なトレーニングプログラムによる
- トレーニング強度の過剰で速い増加は,ノンコンタクトの怪我や,軟部組織損傷を引き起こしやすい
- トレーニング不足はケガのリスクを高める
- 多くのスポーツにおいて適切に鍛えられた身体はケガのリスクを下げる
- 恒常的な高いトレーニング強度はケガのリスクを下げるかもしれない
なかでも総説の中で目を引くのがトレーニング量を急に上げすぎるとケガのリスクが上がることを示した下記の図です。もとはBlanchらの研究3) で発表されたものです。
急性Acute: 最近一週間のトレーニング量,慢性Chronic: 過去4週間の平均のトレーニング量として,直近のトレーニング量がどの程度増減しているのがという比率をだし,その比率と怪我の起きる可能性をグラフ化したものです。興味深いのは描かれた回帰曲線がU字変化をしていること(ちなみにこの回帰曲線はR2=0.53)。急性/慢性の運動量比率が1.5を超えるとケガのリスクが上がるのですが,比率が0.8以下でもケガのリスクが上がる可能性を示しています。つまり,トレーニング量が多すぎても少なすぎてもケガのリスクが上がるということ。
このグラフのプロットされたデータは,過去に発表されたクリケット,ラグビー,Australian footballの3つのスポーツを対象にした研究のデータを用いています。
クリケットは,投球数とsession RPE=minutes × self-reported exertion。
ラグビーは,total running load date。
Australian footballは,total running load dateとハイスピードラン。
クリケットだけ運動負荷の内容がぜんぜん違うじゃないかとツッコミたくなりますが,このグラフのインパクトはすごいですよね。
この研究以後もトレーニング量とケガのリスクについての論文が他のスポーツも含めて発表されているようなので,またいろいろ見てみようと思います。
参考文献
1. Soligard T, Schwellnus M, Alonso JM, Bahr R, Clarsen B, Dijkstra HP, et al. How much is too much? (Part 1) International Olympic Committee consensus statement on load in sport and risk of injury. British journal of sports medicine. 2016 Sep;50(17):1030-41. Epub 2016/08/19.
2. Gabbett TJ. The training-injury prevention paradox: should athletes be training smarter and harder? British journal of sports medicine. 2016 Mar;50(5):273-80. Epub 2016/01/14.
3. Blanch P, Gabbett TJ. Has the athlete trained enough to return to play safely? The acute:chronic workload ratio permits clinicians to quantify a player’s risk of subsequent injury. British journal of sports medicine. 2016 Apr;50(8):471-5. Epub 2015/12/25.
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