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ハムストリングス肉離れのリハビリテーション~Askling L-Protocolについて~

Study

先日参加した学会で聴講した,サッカーを主に診ているスポーツドクターの講演の中で,ハムストリングス肉離れの話題になった時にAskling L-Protocolについて簡単に紹介されていました。私は恥ずかしながらAsklingの論文1)読んでいなかったのでこの機会に読んでまとめてみました。2013年にBritish Journal of Sports MedicineにPublishされた論文です。ちなみに全文フリーで公表されています。この論文は臨床的な示唆に富んでいて面白かったです。

▸研究デザイン
Randomised controlled study

▸目的
スウェーデンのエリートサッカー選手を対象として,ハムストリングス肉離れに対する2つのリハビリテーションプロトコルのどちらが復帰が早いか検討すること

▸対象
スウェーデンのエリートサッカー選手75名

▸方法

ハムストリングス肉離れの評価

  • 臨床所見(受傷後2日以内,以降毎週); ハムストリングスの圧痛ピークの場所と坐骨結節の距離,伸長痛,収縮時痛
  • Askling H-tet; このテストは症状が消失して復帰前段階の選手に実施した。不安感があればフル復帰はさせずにリハビリテーションを続けることとした。
    Askling H-testのインストラクションは”the instruction to the subject was to perform a straight leg raise as fast as possible to the highest point without taking any risk of injury”「損傷しない範囲で,できるだけ速くできるだけ高くStraight leg raiseせよ」という指示でやってもらうみたいです(Askling,2010,KSSTA)。
  • MRI(受傷後5日以内); STIRで健側と比較しハイシグナルの場合に損傷ありと判断。近位腱損傷の有無は,腱の肥厚 and/or 腱周囲の高信号 and/or 腱内の高信号の3つのうち2つあれば近位腱損傷ありと判断した。
  • 受傷機転で損傷タイプを分けた。スプリントタイプ(ハイスピードのラン,加速での受傷)とストレッチタイプ(ハイキックポジションやスプリットポジションでの受傷)。

11選手はハムストリングス肉離れの臨床所見があったがMRIは陰性。これらの選手はL-protocolに割り付け(RCTとは別)。

▸リハビリテーション プロトコル

  • 対象者をL-protocol と C-protocolの二つの異なるプロトコルにランダムに群分け。 ちなみに”L”はLengtheningのL
  • 2つのプロトコルとも5日以内に開始
  • L-protocol →ハムストリングス伸長位での遠心性収縮を目的としたエクササイズ
  • C-protocol →ハムストリングス伸長位を強調しないエクササイズ
  • それぞれ3つのエクササイズで構成されていて,1つは柔軟性の向上をメインに目的,2つめは筋力と骨盤体幹の安定性,3つめはハムストリングスの強化に特化したエクササイズとなっている。
  • 少なくとも毎週一回は指導,エクササイズのスピードや負荷は漸増させた。エクササイズ中の疼痛は生じさせない程度の負荷で行った。

※エクササイズの動画もオンライン上にフリーで公開されているので興味のある方は見てみてください。リンクを貼っておきます。
https://bjsm.bmj.com/content/47/15/953#supplementary-materials

▸メインのアウトカム
復帰までに要した期間。復帰後12ヵ月までの間に再損傷したかも追跡調査。

▸結果

  • 損傷タイプはスプリントタイプ 72% (うち94%が大腿二頭筋長頭),ストレッチタイプ 28%(うち76%が半膜様筋)
  • 対象者の割り付けは,L-protocol 37名,   C-protocol 38名。
  • 復帰までに要した期間は,L-protocol で平均28 日 (1SD±15, range8–58 days),C-protocolで平均51日(1SD±21, range 12–94 days)で,有意にL-protocolにて復帰が早かった。下図参照。

Askling,2013,BJSMより引用 一部改変

  • 近位腱損傷の有無での復帰時期の差を見てみると,近位腱の損傷がある場合に復帰に要する期間が長くなる傾向があった。L-protocolとC-protocolを比較すると近位腱損傷がなかった群間と近位腱損傷があった群間にそれぞれ有意差がありL-protocolにて復帰が早かった。下図参照。

Askling,2013,BJSMより引用 一部改変

  • 同様の傾向が損傷タイプ(スプリントタイプ or ストレッチングタイプ)別でも認められた。ストレッチングタイプで復帰までの期間が長い傾向があり,L-protocolを実施したグループにてC-protocolと比較して復帰までの期間が短かった。
  • 12ヵ月間のフォローアップ中の再損傷はC-protoocolの一名のみ。
  • RCTとは別グループにてMRI陰性だった11名をL-protocolで経過をみていたが,このグループはMRI陽性群と比較して有意に復帰早かった(平均6日)。
  • Askling H-test
    L-protocolの30名とC-protocolの27名はAskling H-testで不安感があり,リハビリ期間を延長した。両群とも約7日程度の追加リハビリ期間を経て復帰に至った。
  • 復帰期間との関連する因子の相関分析
    MRIで確認された損傷部位もしくは圧痛のピークの場所が坐骨結節から近いと復帰まで時間を要する。また,浮腫の範囲が長いほど復帰に時間がかかる。

▸Limitation
全対象者のリハビリプロトコルの指導と評価をひとりの筆者が行っているため,ブラインドされておらずバイアスがかかっている可能性がある。

 

以下,私の感想です。
復帰の基準に関して,Askling H-testクリアーして復帰した今回の対象者の再損傷の少なさはすごいですね(1/75選手)。私はハムストリングスの筋力が9割以上という基準を使っていたりしましたが,Askling H-testも使ってみようかと思います。

実際,臨床場面ではすべての肉離れをMRIで評価することは難しいと思いますが,圧痛部位が坐骨結節近位の例などは積極的にMRIでの評価を入れたほうが予後予測のために良いのかなと思いました。

気になるところとしては,L-protocolのほうC-protocolよりも平均して20日以上復帰が早いわけですが,こんなにはっきりと差が出るものなのか?復帰までにかかったmaxの日数もかなり差があるけどプロトコル変えただけでこんなに変わるか?なにかプロトコル以外の要素が治療者/検者の情報バイアスの他にも結果に影響していそうな気がするんですけどどうなんでしょうね。
あとは,実施したプロトコル以外にも復帰に向けてのトレーニングをやっていると思いますが,そのあたりの統制はどうやっていたのかも気になりますね。

これは2013年の論文なのでハムストリングス肉離れのリハビリテーションに関する最近の研究も探して読んでみようと思います。

Reference
1. Carl M Askling, Magnus Tengvar, Alf Thorstensson. Acute hamstring injuries in Swedish elite football: a prospective randomised controlled clinical trial comparing two rehabilitation protocols.

 

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