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前十字靭帯再建術後のスポーツ復帰基準に片足垂直ジャンプが有用かもという話

整形外科/スポーツ関連

前十字靭帯再建術(ACLR)後のスポーツ復帰にあたり、現在よくつかわれる基準は膝の屈曲伸展筋力と片足ジャンプ(ホップ)距離などです。ただ、これらのテストのみでは、スポーツ復帰後の再受傷やパフォーマンスを予測することはできないといわれています1,2,3)

ホップ距離が対称でも、下肢のバイオメカニクスが対称であるとは限らず、膝の機能としては不十分な回復しか得られていないことが指摘されています4)

ホップ距離は膝関節の機能を測るには不十分であり、片足垂直跳びのほうが有用なのではないかという報告5)が2022年2月のBJSMに出ました。この論文の内容についてまとめます。

目的
  • 片足垂直跳び(SLJ)の推進と着地、片足ドロップジャンプ(SLDJ)の反応相におけるバイオメカニクス(運動学、運動力学、仕事、筋の寄与)をACLR後のアスリートと健常対照者にて比較すること
  • 単純な垂直跳びのパフォーマンス指標が、ACLR後のアスリートのスポーツ復帰の指標として使用できるかについて調査すること
方法

対象:ACLR後にスポーツ復帰を許可された26名の男性アスリートと22名の対照健常者

計測:片足垂直跳び(SLJ)と片足ドロップジャンプ(SLDJ)時の体表マーカーを用いたモーションキャプチャーと筋電図(EMG)

算出項目

シングルレッグジャンプ(SLJ)は、推進と着地の段階で分析

シングルレッグドロップジャンプ(SLDJ)は、最初の(反応的な)着地の吸収(Absorption)期(初期接触から膝関節屈曲のピークまで)と発生(Generation)期(膝関節屈曲のピークからつま先立ちまで)に分けて仕事量を計算

実施したタスクと解析区間 文献5より引用一部改変

パフォーマンス変数は、ジャンプの高さ、接地時間、反応筋力指数(Reactive Strength Index; RSI)。RSIは、ドロップジャンプのジャンプ高さを接地時間で割る方法と、ジャンプの飛行時間を接地時間で割る方法の2つの方法で算出。

逆動力学により矢状面運動学,関節モーメント,関節仕事量を算出

下肢筋力はEMG-constrained musculoskeletal model(EMG拘束筋骨格系モデル)により算出

筋力寄与率はモデル内の全筋力のインパルスに対する割合として算出。

手術側と非手術側の差およびグループ間の差は、混合モデル分析を用いて検討。

結果と考察

ジャンプのパフォーマンス

ジャンプの高さと反応筋力指数(RSI)で評価したジャンプのパフォーマンスは、非手術側および対照肢に比べ手術肢で有意に低く、大きな効果サイズが認められた。ACLR群では、SLJとSLDJにおけるジャンプ高さの下肢対称性指数はそれぞれ83%と77%で手術側にてジャンプ高さが低かった。

ここで注目すべきなのが、ACL群では復帰基準として大腿四頭筋筋力と水平のホップ距離では90%以上の対称性を達成しているのにも関わらず、SLJやSLDJで80%前後の対称性にとどまっているということです。

下肢関節の仕事量

SLJおよびSLDJでは、非手術肢および対照群と比較して手術膝で仕事量が少なかった。相対的に股関節の仕事量が増えていた。

膝仕事量の差を下肢間の比較(LSI)で評価すると、手術側の膝仕事量はSLJで75%、SLDJで70%。

片足垂直跳びでの下肢関節仕事量の貢献度 文献5より引用一部改変
片足ドロップジャンプでの下肢関節仕事量の貢献度 文献5より引用一部改変


本研究と同じ対象者での研究で、水平ホップの推進期における全下肢の仕事に対する膝の寄与はわずか10%であった4)が、SLJとSLDJの推進期では膝の寄与は全体の約30%であった。ということで、垂直跳びのほうが水平跳びに比べて膝の負担が大きいため、膝に障がいのある人の場合、パフォーマンス低下が目立ちやすいと考えられる、とのこと。

筋の寄与率

ACLR後の患者は、筋肉の寄与に非対称性を示し、筋肉の使い方が変化していることを示唆しているのが下の図。

SLJ 推進期, SLJ 着地期, SLDJ着地期での筋の寄与率 文献5より引用一部改変


SLJとSLDJにおいて、外側ハムストリングスの寄与は、手術側で有意に大きかった。

ジャンプの着地時には対照群でヒラメ筋の寄与が大きいのに対して、手術側ではヒラメ筋の寄与率が少なかった。

全身の代償

どちらのジャンプ課題においても、ACLR後の選手は膝の屈曲が減少し、股関節の屈曲、骨盤の前傾、体幹の屈曲をより大きくしていた。これは、両課題のすべてのフェーズで見られた膝の仕事量の減少を補うためのメカニズムである可能性がある。

着地動作の初期はACL損傷が発生しやすいフェーズであるため、着地時の膝の屈曲が少ないと、ACLの再損傷につながりやすいため、この代償戦略が再損傷のリスクを高める可能性があることが示唆された。

膝に負荷がかからず股関節に負荷がかかるような代償的戦略は、ACLR後の様々なタスクでよく見られるメカニズムであり6-8)、性別と筋力にも影響され男性ではエネルギー吸収が主に股関節に移行する9)とのこと。
さらに、上半身の運動パターンは、手術側でタスクを行った場合と非手術側で行った場合で異なっていた。このことは、この代償戦略が下肢だけでなく、全身に及ぶことを示唆している。

まとめ 感想

以上の結果を踏まえて著者らの推奨は、ACLR後スポーツ復帰時の膝機能を評価する指標として、水平のホップ距離よりも垂直跳びのパフォーマンス(高さ)が適している、ということです。
この研究のような詳細なバイオメカニクスを解析することは臨床やスポーツ現場ではできませんが、高さだけの計測であれば比較的簡便にできそうです。

たしかに臨床でみていても水平のホップは意外と跳べるんですよね。

個人的に面白かったのは、垂直飛びの踏み切りも着地もヒラメ筋の働きが相対的に減少していたことです。ヒラメ筋は脛骨の前傾を制御してくれるので、脛骨の前方せんだん力を制御しACLにかかる負担を軽減できる重要な筋のひとつです。なので、ヒラメ筋の寄与が減ってしまっている傾向があるのは再建ACLの保護を考えるうえで問題ですね。

術後早期はリハビリ中にも足関節のトレーニングの時間をとってやってますが、トレーニングの後期になってくるとそこにさく時間が少なくなってしまっているかもしれないなと思いました。ヒラメ筋の筋力評価にいい方法が少ないのもトレーニングの量が確保できないことに影響している気もします。

私はヒラメ筋の筋力評価として、荷重下で膝屈曲位踵あげた状態で踵を下方に引き下げる外力をかけた時の安定性をみる方法を使用してますが、客観的な数値で出せないので指標としては不十分だなと感じてます。それでも左右差の評価はある程度できるので、左右差を評価して患者本人にフィードバックして、復帰前の段階でもしっかりと負荷をかけたヒラメ筋のトレーニングをやっていく必要があるな、と今回の論文を読んで感じました。

参考文献

1 Ardern CL, Webster KE, Taylor NF, et al. Return to the preinjury level of competitive sport after anterior cruciate ligament reconstruction surgery: two- thirds of patients have not returned by 12 months after surgery. Am J Sports Med 2011;39:538–43.

2 Niederer D, Engeroff T, Wilke J, et al. Return to play, performance, and career duration after anterior cruciate ligament rupture: a case- control study in the five biggest football nations in Europe. Scand J Med Sci Sports 2018;28:2226–33.

3 Wiggins AJ, Grandhi RK, Schneider DK, et al. Risk of secondary injury in younger athletes after anterior cruciate ligament reconstruction: a systematic review and meta- analysis. Am J Sports Med 2016;44:1861–76.

4 Kotsifaki A, Whiteley R, Van Rossom S, et al. Single leg hop for distance symmetry masks lower limb biomechanics: time to discuss hop distance as decision criterion for return to sport after ACL reconstruction? Br J Sports Med 2021. doi:10.1136/ bjsports-2020-103677. [Epub ahead of print: 09 Mar 2021].

5 Kotsifaki A, Van Rossom S, Whiteley R, Korakakis V, Bahr R, Sideris V, Jonkers I. Single leg vertical jump performance identifies knee function deficits at return to sport after ACL reconstruction in male athletes. Br J Sports Med. 2022 Feb 8:bjsports-2021-104692. doi: 10.1136/bjsports-2021-104692. Epub ahead of print. PMID: 35135826.

6 Osternig LR, Ferber R, Mercer J, et al. Human hip and knee torque accommodations to anterior cruciate ligament dysfunction. Eur J Appl Physiol 2000;83:71–6.

7 Sigward SM, Chan M- SM, Lin PE, et al. Compensatory strategies that reduce knee extensor demand during a bilateral squat change from 3 to 5 months following anterior cruciate ligament reconstruction. J Orthop Sports Phys Ther 2018;48:713–8.

8 Wren TAL, Mueske NM, Brophy CH, et al. Hop distance symmetry does not indicate normal landing biomechanics in adolescent athletes with recent anterior cruciate ligament reconstruction. J Orthop Sports Phys Ther 2018;48:622–9.

9 McBride JM, Nimphius S. Biological system energy algorithm reflected in sub- system joint work distribution movement strategies: influence of strength and eccentric loading. Sci Rep 2020;10:12052.

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