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将来的な不健康につながりかねない子どもの運動不足には多面的なアプローチが必要

Childcare

2021年にThe Lancetで身体活動に関する第3回シリーズの文献が発表されました。私たちの健康に対する定期的な身体活動とスポーツの重要性についてのなかなかボリュームのある論考です。その結果、青少年や障がい者がWHOの身体活動ガイドラインを満たすために必要な支援を受けられない集団であることが判明しました。これに関しては、この10年間でほとんど進展がないとのことです。

その3本のうち、子どもの運動不足に関する文献の内容について紹介します1)

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)01259-9/fulltext

身体活動の不足は、心臓病、糖尿病、一部のがんなどの非伝染性疾患(non-communicable diseases; NCD)のリスク上昇と関連しています2,3)

思春期は健康的な行動を身につけるために重要なライフステージだが、思春期の身体活動やその中期的・長期的な結果との関連はあまり理解されていないのが現状です。 実際、青少年期の運動量は十分ではなく、運動不足は世界的にも社会的にも不平等な分布で広がっている。

青少年期の身体活動に対する理解を深め、効果的な戦略を実施することが重要。子どもの身体活動を促進する政策や介入の実施は、2030年の国連の持続可能な開発目標(SDGs)の多くの達成に貢献する可能性がある4)

この問題に取り組むには、学際的かつ部門横断的な協力を通じて、社会、環境、学校教育といった多面的にシステムレベルで根本的な変化をもたらす全システム的アプローチが必要。

子どもの運動に関与する環境的要素としては、学校やその他の教育環境、居住している都市の環境、家庭環境も含めた社会的な環境、インターネットやSNSなどデジタル環境がある。

子どもにおける身体活動不足と座りがちな行動の問題

WHOは、18歳未満の子どもや青年は1日平均60分以上の中等度から強度の身体活動を実施することを推奨していますが、18歳以上の人は1週間に少なくとも150~300分の中程度の強度の身体活動または75~150分の強度の身体活動、または同等の組み合わせを実施する必要があるとしている5)

しかし、世界的な分析によると、学校に通う青少年の80%が、WHOが推奨する1日60分の身体活動のガイドラインを満たしていないことが分かっています。

その原因のひとつとして、エネルギーをほとんど消費せずに座ったり横になったりして過ごす時間(座りがちな行動)と特定のデジタル活動(スマホやPCを使った行動)への関与が、過去10年間で急速に増えていることがあります6,7)

思春期の身体活動不足がもたらす健康への影響はどんなものがあるのでしょうか。

これに関しては明確なエビデンスが確立されていないようです。短期的に抑うつなどのメンタルヘルスへの影響8)、肥満との関連9)、中期的・長期的な心代謝系のアウトカムと関連が指摘されています。

身体的不活動は、複雑なシステムによって生み出される「邪悪な問題」であると認識されている10) 。そのため、解決策を特定するには、”システムの好意的な再構築に寄与するか“、”どのようにシステムの変更に寄与するか”を特定することが求められる11)。システム思考の考え方が重要ということですね。

このパラダイムの転換により、WHOは身体活動に関する世界行動計画でシステムの枠組みを採用し、活発な社会、環境、人のシステム構築を志すことになった12)とのこと。

身体活動システムの3つの主要な構成要素に焦点を当てた。特に重要場所である学校と教育環境、行動変容のための課題と可能性を提供する社会とデジタル環境、そして人口レベルの身体活動不足に取り組むための重要かつ上流の戦略として認識が高まってきている都市環境である。

学校とその他の教育環境の役割

世界中で学校は健康増進の重要な手段であると考えられていて、青少年期の子どもに広くアプローチできるチャネルです。

ただ現状として、学校は身体活動を増加させる手段を提供しているが、学校を基盤とした取り組みは全体としてあまり成功していない、またより年齢の高い青少年(15~19歳)を含む研究は少ないという状況のようです。

スポーツと体育のプログラムは、青少年の身体的リテラシーを発達させるために必要であり12)、それらは身体活動の自立と長期的な楽しみを促進する身体活動スキルを身に付ける機会を提供する13)が、プログラムは必ずしも全体的な活動量の増加に結びつかない14)

多成分介入(学校ベースの包括的な身体活動プログラム)は、特に思春期の女子にとって単一成分の介入よりも成功するようであり、課外介入よりも課内介入(カリキュラムの一部として実施)のほうが強い効果を持つ15,16)

体育やスポーツは運動の苦手な人が身体活動が嫌いになってしまうきっかけを提供することにもなりかねない。教育現場においては年齢の高めの青年をターゲットにし、惹きつけるような新しい介入が必要。

社会環境とデジタル環境の課題と可能性

思春期は自立心が芽生える時期であり、大人(親や教師)よりも仲間や友人の社会的支援の影響力が強くなる時期である。特に思春期の身体活動におけるソーシャルサポートの役割に焦点を当てた3つのレビューを合わせると、家族や友人からのソーシャルサポートは思春期の身体活動と正の関係がある17,18,19)

自分の経験や子どもを見ていても、親の影響力が特に大きいのは小学校入学までか低学年くらいまでで、小学校高学年からは友だちとの遊びやスポーツクラブ活動などが運動のメインの場所になると思います。中学生くらいから運動しない子はまったくと言っていいほど運動しなくなってしまうので、そういった層をいかにフォローして身体運動する機会を保つかというところが課題ですね。

デジタル革命は、特に若年世代において、生活とコミュニケーションの方法を根本的に変えた。2015年には、世界で15歳の青少年の95%が自宅でインターネットにアクセスし、2017年には、サハラ以南のアフリカで18歳から29歳の個人の63%がスマートフォンを所有していたとのこと。

このデジタル革命の間、11歳から17歳の青少年の身体活動のグローバル有病率は約80%で安定しており、デジタルメディアの利用の増加が青少年の身体活動の低下の主要因ではない可能性が示唆されている20)

インターネットへのアクセスが広がり、その有効性を示す証拠もあること21,22)から、今後青少年のニーズや生活環境に合わせたデジタルメディアを介したアプローチの潜在的な貢献度を探る必要がある。

Youtube やTikTokといったメディアによる運動習慣の促しは大きなポテンシャルを秘めていると思う。あとは、ゲーム。最近だと任天堂スイッチのリングフィットアドベンチャーなどはうちの子ども母親と一緒に熱心にやってた。ゲーム形式だと夢中になってやるし、一人でもできる、周りの目も気にしないでよい、ということでスポーツを普段やらない層にもいいなーと思ます。

都市環境との関連

成人を対象とした世界的な研究では、客観的に確認された都市環境属性と加速度計で測定された身体活動との間に正の相関関係が示され、特に住宅密度、交差点密度、公共交通密度、公園数について関係が示されている23)

高所得国におけるレビュー24)では、遊び(スポーツやフィットネスを含む)、歩行、および歩行と遊びの両方を促進する建築環境特性について、思春期の初期と後期の両方で正の効果量が示された。 このことは、都市環境の多目的設計が、特に青年になるにつれて重要であることを示唆している。

自分の子どもと休日過ごしていても公園は身体を動かす場所として重要だなと感じます。

あと都市環境で重要な要素が移動の際に歩行や自転車を使ったアクティブな移動を増やすこと。アクティブな移動は青少年の身体活動に重要な寄与をしている25,26) 。なんと、男子の平均 38%、女子の平均 46%が、徒歩や自転車での通学をしたことがないと回答しているとのこと。

これは田舎出身の私としてはなかなか衝撃のデータ。私が子どもの頃住んでいた地域では4-5kmくらいの距離を自転車通学している友だちも多かった。今考えると、あれはいい運動機会になっていたかも。移動を運動の機会と捉えなおす発想は、気軽に導入できていいですね。私は2年前からウェアラブルデバイスで心拍数モニタリングしてますが、朝の通勤で駅まで向かう時が一日のうちで一番心拍数が高かったりします。

まとめ
  • 子どもの運動不足は将来的な健康に影響を与える可能性がある
  • 身体運動の不足は学校、社会、デジタル、都市といった多要素がかかわる複雑なシステムの結果であり、学際的かつ多面的な介入でシステムを改変していく必要がある
  • まだまだ研究が少なく、有効な介入も模索中というところ
参考文献

1 van Sluijs EMF, Ekelund U, Crochemore-Silva I, Guthold R, Ha A, Lubans D, Oyeyemi AL, Ding D, Katzmarzyk PT. Physical activity behaviours in adolescence: current evidence and opportunities for intervention. Lancet. 2021 Jul 31;398(10298):429-442. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01259-9. Epub 2021 Jul 21. PMID: 34302767.

2 Lee IM, Shiroma EJ, Lobelo F, Puska P, Blair SN, Katzmarzyk PT.Effect of physical inactivity on major non-communicable diseasesworldwide: an analysis of burden of disease and life expectancy.Lancet 2012; 380: 219–29.

3 Ding D, Lawson KD, Kolbe-Alexander TL, et al. The economic burden of physical inactivity: a global analysis of major non-communicable diseases. Lancet 2016; 388: 1311–24.

4 UN. Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development. New York, NY: United Nations, 2015.

5 Bull FC, Al-Ansari SS, Biddle S, et al. World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour. Br J Sports Med 2020; 54: 1451–62.

6 Carson V, Hunter S, Kuzik N, et al. Systematic review of sedentary behaviour and health indicators in school-aged children and youth: an update. Appl Physiol Nutr Metab 2016; 41 (suppl 3): S240–65.

7 Kandola A, Lewis G, Osborn DPJ, Stubbs B, Hayes JF. Depressive symptoms and objectively measured physical activity and sedentary behaviour throughout adolescence: a prospective cohort study. Lancet Psychiatry 2020; 7: 262–71.

8 Erskine HE, Moffitt TE, Copeland WE, et al. A heavy burden on young minds: the global burden of mental and substance use disorders in children and youth. Psychol Med 2015; 45: 1551–63.

9 Ng M, Fleming T, Robinson M, et al. Global, regional, and national prevalence of overweight and obesity in children and adults during1980-2013: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2013. Lancet 2014; 384: 766–81.

10 Rutter H, Cavill N, Bauman A, Bull F. Systems approaches to global and national physical activity plans. Bull World Health Organ 2019; 97: 162–6

10 Rutter H, Savona N, Glonti K, et al. The need for a complex systems model of evidence for public health. Lancet 2017; 390: 2602–04

11 International Society For Physical Activity And Health. ISPAH’s eight investments that work for physical activity. 2020. https://www.ispah.org/resources/key-resources/8-investments/ (accessed Feb 28, 2020).

12 Whitehead M. Definition of physical literacy and clarification of related issues. ICSSPE Bull J Sport Sci Phys Educ 2013; 65: 28–33.

13 Hulteen RM, Smith JJ, Morgan PJ, et al. Global participation in sport and leisure-time physical activities: a systematic review and meta-analysis. Prev Med 2017; 95: 14–25.

14 Ha AS, Lonsdale C, Lubans DR, Ng JYY. Increasing students’ activity in physical education: results of the self-determined exercise and learning for FITness Trial. Med Sci Sports Exerc 2020; 52: 696–704.

15 US Centers for Disease Control and Prevention. Comprehensive school physical activity programs: a guide for schools. Atlanta, GA: US Department of Health and Human Services, 2013.

16 Sutherland RL, Campbell EM, Lubans DR, et al. The Physical Activity 4 Everyone cluster randomized trial: 2-year outcomes of a school physical activity intervention among adolescents. Am J Prev Med 2016; 51: 195–205

17 Laird Y, Fawkner S, Kelly P, McNamee L, Niven A. The role of social support on physical activity behaviour in adolescent girls: a systematic review and meta-analysis. Int J Behav Nutr Phys Act2016; 13: 79

18 Mendonça G, Cheng LA, Mélo EN, de Farias Júnior JC. Physical activity and social support in adolescents: a systematic review. Health Educ Res 2014; 29: 822–39.

19 Yao CA, Rhodes RE. Parental correlates in child and adolescent physical activity: a meta-analysis. Int J Behav Nutr Phys Act 2015; 12: 10.

20 Guthold R, Stevens GA, Riley LM, Bull FC. Global trends in insufficient physical activity among adolescents: a pooled analysis of 298 population-based surveys with 1·6 million participants. Lancet Child Adolesc Health 2020; 4: 23–35.

21 Champion KE, Parmenter B, McGowan C, et al. Effectiveness of school-based eHealth interventions to prevent multiple lifestyle risk behaviours among adolescents: a systematic review and meta-analysis. Lancet Digit Health 2019; 1: e206–21.

22 Shin Y, Kim SK, Lee M. Mobile phone interventions to improve adolescents’ physical health: a systematic review and meta-analysis. Public Health Nurs 2019; 36: 787–99.

23 Sallis JF, Cerin E, Conway TL, et al. Physical activity in relation to urban environments in 14 cities worldwide: a cross-sectional study. Lancet 2016; 387: 2207–17.

24 McGrath LJ, Hopkins WG, Hinckson EA. Associations of objectively measured built-environment attributes with youth moderate-vigorous physical activity: a systematic review and meta-analysis. Sports Med 2015; 45: 841–65.

25 Larouche R, Saunders TJ, Faulkner G, Colley R, Tremblay M. Associations between active school transport and physical activity, body composition, and cardiovascular fitness: a systematic review of 68 studies. J Phys Act Health 2014; 11: 206–27.

26 Peralta M, Henriques-Neto D, Bordado J, Loureiro N, Diz S, Marques A. Active commuting to school and physical activity levels among 11 to 16 year-old adolescents from 63 low- and
middle-income countries. Int J Environ Res Public Health 2020;
17: e1276.

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