整形外科の外来には足関節捻挫や腰痛、膝痛、肩痛などで来院する小中学生も多いです。外来理学療法で自宅でのエクササイズを指導することもありますが、小学生くらいだとなかなかエクササイズを理解してやってもらうことが難しいことがあります。低学年であれば親にも一緒に運動をみてもらってポイントをお伝えしたり動画や写真を撮ってもらったり、高学年だと本人にもわかるように絵などを描いて伝えたり、工夫はしますが、実際に病院外でやってもらえるかは厳しいですよね。
今後、子どもたち向けの運動教室なども企画していく予定なので、今回は「ケガをした子どもに対する運動療法への参加や継続(アドヒアランス)をどうやって高めるか?」というテーマの文献1)を読んでまとめておきます。
アドヒアランスとは、「粘着」や「固執」といった意味ですが、「治療に対して患者が積極的に関わり、その決定に沿った治療を患者自身が行う」といった能動的な意味合いで使用されます。
▸目的
筋骨格系疾患を持つ青少年の運動療法のアドヒアランスを高めるための阻害因子、促進因子、戦略を特定し、分類することで、研究と臨床の実践に役立てること。
▸研究デザイン
scoping review
▸方法
- 文献検索:MEDLINE、CINAHL、SPORTDiscus、Scopus、PEDro、ProQuestを開始から2019年10月1日まで検索
- 研究の選択基準:筋骨格系疾患を有する青少年(年齢、19歳以下)を対象とした運動療法のアドヒアランスに対する阻害因子、促進因子、ブースト戦略に関する英語で書かれた研究を対象
- Scoping Reviews実施にはArksey and O’MalleyのフレームワークとPRISMA Extensionを使用
- 研究の質は Mixed Methods Appraisal Tool を用いて評価
- 記述的統合には、研究とサンプルの特徴、運動療法の詳細、アドヒアランス測定の詳細を含む
- BraunとClarkeの6段階のガイドに沿って、アドヒアランスの阻害因子、促進因子、向上戦略についての帰納的なテーマ別分析を行った
▸結果
- 採用41件の研究
- 12種類の筋骨格系疾患と複数の運動療法介入を行った2020人の参加者(64%が女子、年齢2~19歳)を対象
- 主な阻害因子:時間的制約、物理的環境(例:場所)、否定的な運動経験など
- 主な促進因子:社会的支援、積極的な運動経験など
- 強化(reinforcement)、運動プログラムの詳細などは、阻害因子や促進因子としては明らかにした研究がないが、一般的に採用されることが多かった
テーマ | 阻害因子 or 促進因子 | アドヒアランス向上戦略の実践例 |
---|---|---|
時間 | エクササイズを少なくする (促進) | 時間的な負担を最小限に抑えるために、運動の回数を制限する |
エクササイズ中の経験 | エクササイズを楽しくする (促進) | 子ども:運動中にゲームや手芸を使うことを検討する;好きなスポーツなどの運動に好きな活動や認識できる活動を取り入れる 思春期:運動中の音楽やテレビを自分で選ぶことを提案する;運動をゲームや競技にすることを検討する;運動のルーティンにテクノロジーやソーシャルメディアを取り入れる |
痛みを伴うエクササイズ (阻害) | こまめにチェックして、快適なエクササイズができるようにする | |
退屈なエクササイズ (阻害) | 単調にならないように、定期的にエクササイズを発展させたり、変更したりする 可能であれば、本、ゲーム、技術など、運動中の気晴らしのテクニックを考慮する | |
社会的な環境 | 家族と参加する(促進) | 親や兄弟を誘って運動に参加させる(例:家族での挑戦) |
友達と参加する(促進) | 友達を誘って運動に参加させる(例:「理学療法の日」に友達を連れてくる) | |
治療についての強力な絆 (促進) | セラピストと患者との相互作用と連携による早期の良好な治療提携の確立 グループエクササイズクラスでは、セラピストと参加者の割合を減らして、1対1でのケアを強化することを検討してみる | |
グループエクササイズ (促進) | 同じような条件・年齢のグループ運動教室を検討する 学校の先生を巻き込んで、運動を授業に取り入れることができるようにする | |
オンラインのサポート (促進) | 若者のための身体状態に応じたオンラインフォーラムやチャットルームを求める | |
物理的な環境 | 交通の問題 (阻害) | 場所に依存しないプログラム設計 運動をする場所について、型にはまらない場所を考える(学校、公園、プールなど) 監督付きの運動の場合は、セッションを行う場所を複数用意し、自宅からの近さや駐車場などの要素を考慮する |
最小限の設備要件 (促進) | 可能であれば、最小限の設備要件でプログラムを提供する |
Holt.2020 1) より引用 ブログ著者訳
▸結論
- 筋骨格系疾患を持つ青少年の運動療法の阻害因子や促進因子は多様
- アドヒアランスを高める戦略を個人のニーズに結びつけることが必要
- アドヒアランスを最大化するためには、運動を楽しく、社会的で、便利なものにすることが重要
参考文献
- Holt CJ, McKay CD, Truong LK, Le CY, Gross DP, Whittaker JL. Sticking to It: A Scoping Review of Adherence to Exercise Therapy Interventions in Children and Adolescents With Musculoskeletal Conditions. J Orthop Sports Phys Ther. 2020 Sep;50(9):503-515. doi: 10.2519/jospt.2020.9715. Epub 2020 Aug 1. PMID: 32741327.
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