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「フレイル」はこれからの高齢者の健康に関する重要なキーワード

フレイル

「フレイル」という言葉を聞いたことがありますか?メタボ、ロコモなどに続き、また新たなカタカナ語がでてきて混乱を招きそうなところですが、今後フレイルは要介護状態の予防の観点で重要な概念になると思います。

厚生労働省主導で2020年度から、75歳以上の人を対象に行っている健診の中で、フレイルの状態になっているかをチェックする質問票を導入する予定となっています。また、私個人としてもフレイルに関する対策は2020年の活動のひとつの軸となりそうです。

導入される予定の質問票は、 フレイルなど高齢者の特性を踏まえて健康状態を総合的に把握するという目的から、(1)健康状態、(2)心の健康状態、(3)食習慣、(4)口腔機能、(5)体重変化、(6)運動・転倒、(7)認知機能、(8)喫煙、(9)社会参加、(10)ソーシャルサポートの10類型に整理されています。詳細は厚生労働省「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン第2版」に載っています。

後期高齢者の健診で使用予定の質問票

「後期高齢者の質問票」 高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン第2版  より作成

この質問票の結果をもとに各自治体において、対象となる高齢者の健康増進・要介護状態の予防などの対策を練るということのようです。

そもそも、フレイルとは

フレイルは英語のFrailtyがもとになっています。Frailtyは直訳すると弱いこと;もろさ;虚弱といった意味です。Frail elderly (people)というと、医学的/栄養面/認知面/活動面などに何らかの障がいがある高齢者; 介護が必要な高齢者; 虚弱高齢者といった意味になります。 2014年にフレイルに関する日本老年医学会からのステートメントがだされて以降、徐々に日本でも認知されてきています。

Frailtyとは、高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡など の転帰に陥りやすい状態で、筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困 窮などの社会的問題を含む概念

(中略)

Frailty の日本語訳についてこれまで「虚弱」が使われているが、「老衰」、「衰弱」、「脆弱」 といった日本語訳も使われることがあり、“加齢に伴って不可逆的に老い衰えた状態”といった印象を与えてきた。しかしながら、Frailty には、しかるべき介入により再び健常な状態に戻るという可逆性が包含されている。従って、Frailtyに陥った高齢者を早期に発見し、適切な介入をすることにより、生活機能の維持・向上を図ることが期待される。また、「虚弱」で は Frailty の持つ多面的な要素、すなわち身体的、精神・心理的、社会的側面のニュアンスを十分に表現できているとは言いがたい

(中略)

関連学会にも呼びかけ、様々な案について検討を行った結果、「虚弱」に代わって「フレイル」を使用する合意を得た。

2014年 フレイルに関する日本老年医学会からのステートメントより一部引用 文章強調はブログ著者による 

「Frailty=虚弱」というとネガティブなイメージが強く、また身体面のことに偏っている印象があるため、「フレイル」という日本になじみのないカタカナ語にして、「多面的」かつ「可逆的である」ということを聞いた人に受け入れられやすくするという意図もあったようです。

フレイルの診断基準

フレイルの診断基準はいくつかありますが、現在のところ確立されていません。その中で世界で最も使用されている基準はFriedらがCardiovascular Health Study(CHS)で用いた phenotype model(CHS基準)1)です。CHS基準には5項目あり、3項目以上該当すればフレイル、1~2項目のみ該当する場合はフレイル前段階(プレフレイル)となります。

FriedのCHS基準

  1. unintentional weight loss (10 lbs in past year)
  2. self-reported exhaustion
  3. weakness (grip strength)
  4. slow walking speed
  5. low physical activity

CHS基準をもとにして、日本人に妥当な基準値に修正した日本版CHS基準2)も作成されいています。CHS基準と同じく3項目以上該当すればフレイル、1~2項目のみ該当する場合はフレイル前段階(プレフレイル)となります。

日本版CHS基準

  1. 体重減少 :6か月間で2~3kg 以上の(意図しない)体重減少がある
  2. 疲労 :「(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする」 に「はい」と回答
  3. 筋力低下 :(利き手における測定)男性 26kg 未満、女性 18kg 未満の場合
  4. 歩行速度の低下 :1m/秒未満の場合
  5. 身体活動の低下 :「軽い運動・体操(農作業も含む)を 1 週間に何日くらいしていますか?」及 び「定期的な運動・スポーツ(農作業を含む)を 1 週間に何日くらいしていますか?」 の両方とも「していない」と回答

Mitnitski や Rockwood らの Accumulated deficit model (欠損累積モデル); Frailty Index3)

欠損累積モデルは、さまざまな機能障害の集積を評価する方法です。加齢に伴う機能障害の累積がフレイル状態の程度を反映すると考え、評価項目数に対する累積障害数の割合をFrailty Index として表わします。日常生活動作,心理社会的リスク要因および老年症候群など30項目以上を評価し、障害の数を合計して項目数で割ることでFrailty Indexが算出できます。 Frailty Index が高いほどフレイルが重度となります。カットオフ値は定まってはいませんが、概ね 0.25 以上をフレイルと評価することが多いとされています。Frailty Indexは死亡やADL障害の予測に優れた指標ですが、項目数が多く複雑なため、臨床場面や大規模な疫学研究では使用が難しいといわれています。

基本チェックリストを使用したフレイル評価法

2006年に厚生労働省が示した基本チェックリストは、生活状態や心身の機能に関する 25 の質問に対して、「はい」か「いいえ」で回答する自己記入式質問票です。これがフレイルの評価法として有用かどうかを検証した研究があります。Satakeら4)はCHS 基準のフレイルとプレフレイルに相当する基本チェックリスト総合点のカットオフ値を求めたところ、 プレフレイルは4~7点フレイルは8 点以上だったと報告しました。基本チェックリストはもともとフレイルチェックに特化した評価ではありませんが、自治体にも広まっていて、自己記入で簡便にできる方法なので使用しやすいという利点があります。

フレイル予防には多面的な要素が必要

フレイルの多面性をあらわす興味深い横断研究があります。

吉澤らは、要介護認定を受けていない地域在住高齢者約7万人全数を対象として、厚生労働省の基本チェックリストを使用しフレイルを評価し、対象者が週一回以上実施している様々な活動(身体活動、文化活動、地域・ボランティア活動)とフレイルとの関連を調べました。
67%にあたる約5万人のデータが解析され、 プレフレイルは22.7%、フレイルは12.8%にみられました。それぞれの活動の習慣を有する高齢者は、身体活動(ウォーキング、水泳、筋力トレーニングなど) 65.9%、文化活動(料理、手芸、カラオケなど) 78.8% 、地域活動(ボランティア活動など) 14.9% でした。
3種の活動すべてを実施している群を対照として比較した結果、フレイルに対する調整オッズ比は、身体活動のみ未実施では2.19、文化活動のみ未実施では1.48、地域活動のみ未実施では2.09でした。1種類の活動のみを実施している場合の調整オッズ比は5.40~6.42でいずれも有意にフレイルと関連していました。さらに3種の活動のいずれも未実施の場合の調整オッズ比は、16.41で活動の種類の減少に伴ってフレイルの段階的な増加がみられました。つまり、1つだけの活動よりも2つ、できれば3つの異なる活動を行っている高齢者のほうがフレイルではなかったということです。
横断研究なので、活動が少ないのがフレイルの原因か、フレイルになるような身体の変化が先かといった因果関係についてはわかりませんが、予防・介入策を考えていくうえで非常に参考になる結果です。 ただ運動するプログラムを提供するだけではなく、人と人とのつながり、コミュニティのつながり、地域での活動などを含めて考えるなど、よりその人その人、その地域その地域での特性を活かした対策を考えていく必要がありそうです。

吉澤ら2019 5)からブログ著者作図

超高齢社会の先頭を走る日本においてフレイルは非常に重要なキーワードになります。これから各地域でフレイル対策がいろいろとなされていきますが、ただのブームでやりっぱなしになってしまわないよう効果の検証をしっかりとしていく必要があります。私も広い視野を持ちつつ、地域での活動を行っていきます。

参考文献

  1. Fried LP1, Tangen CM, Walston J, et al. Frailty in older adults: evidence for a phenotype.J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001 Mar;56(3):M146-56.
  2. Satake S, Shimada H, Yamada M, et al: Prevalence of frailty among community-dwellers and outpatients in Japan as defined by the Japanese version of the Cardiovascular Health Study criteria. Geriatr Gerontol Int 2017; 17: 2629-2634.
  3. Mitnitski AB, Mogilner AJ, Rockwood K: Accumulation of deficits as a proxy measure of aging. Scientific World Journal 2001; 1: 323―336.
  4. Satake, S., Senda, K., Hong, Y.J., Miura, H., Endo, H., Sakurai, T. et al. Validity of the Kihon Checklist for assessing frailty status. Geriatr Gerontol Int. 2016 Jun;16(6):709-15. doi: 10.1111/ggi.12543.
  5. 吉澤 裕世, 田中 友規, 高橋 競, 藤崎 万裕, 飯島 勝矢. 地域在住高齢者における身体・文化・地域活動の重複実施とフレイルとの関係. 日本公衆衛生雑誌. 2019年; 66巻6号: 306-316

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