スポーツでのケガの後にアスリートやコーチからまず聞かれる質問が「いつ競技に復帰できますか?」ということです。これに対する答えにはさまざまな要素が絡み合うので単純に答えることが難しいことがあります。
私の勤務している整形外科外来でもサポートしている地域の高校野球部でも必ず復帰時期に関する説明とリハビリプランの説明をします。急性外傷や術後の復帰もありますが、慢性損傷の場合も多く復帰の判断がやはり難しい場合があります。
今回は2015年11月にスイスのベルンで行われたReturn to sportに関する会議のなかで作成された競技復帰についてのコンセンサス ステートメント1) をまとめてみました。競技復帰に向けての流れや考慮することを概観するのに使える内容で,頭の中を整理するのに良かったです。ちなみにこの論文はフリーで公開されています。
Return to sportの決定にかかわるkey take home messages
- Return to sportの決定に必要な最小限の情報: アスリートが復帰する競技種目と参加のレベル
- Return to sportは3つの連続する要素から成る: 1) Return to participation, 2) Return to sport, 3) Return to performance
- 一定の状況においてはReturn to sportの決定が,決定からの除外へと覆されることがある
- Return to sportの決定はすべての関係者間で共有されるべきである(アスリートの健康リスクのケースを除く)
- Return to participation.リハビリテーション,トレーニング,スポーツに参加できているが,Return to sportのゴールに達していない。
- Return to sport (RTS).スポーツに復帰しているが,パフォーマンスはアスリートの望むレベルに達していない。
- Return to performance.受傷前と同様もしくは受傷前を超えたレベルのパフォーマンスができる。
The Strategic Assessment of Risk and Risk Tolerance (StARRT) modelについて
The Strategic Assessment of Risk and Risk Tolerance (StARRT) modelとは,Return to sportの短期および長期結果に関わるリスクと,アスリート個別の文脈において許容できるリスクとみなされる要素を推定する助けとなる,3つのステップで構成されたモデル.
- Step 1 健康リスクの評価(tissue health):個人の一般情報や健康状態,損傷組織の状態に関する情報
- Step 2 活動リスクの評価(tissue stress):スポーツ場面において損傷組織に対してかかる予測される負荷に関する情報
- Step 3 リスク耐性の評価(risk tolerance modifiers):スポーツ復帰決定者のリスクに対する耐性に影響する文脈的な要素の情報
Return to sportのガイドとなるモデルに関するkey take home messages
- 生物的,心理的,社会的因子がReturn to sport決定や移行に影響を与えることを考慮することが,共有されたReturn to sport決定をする上で臨床家の適切な貢献のための補助となる
- 意思決定チーム内の構成,役割はできるだけ速やかに決めるべきである
- Return to sport意思決定チームのメンバーは関係するすべての利害関係者間で定期的に情報共有すべきである
- 定期的な評価とゴールの検討はスケジュール立てされるべきである
Return to sportに関わるエビデンスについてのkey take home messages
- Return to sportにかかる時間はケガの種類と重症度により異なる。ケガの正確な予後予測とReturn to sportタイムラインへの挑戦を反映させる必要がある
- Return to sportの決定は常にリアルなスポーツシーンを模したテストバッテリーにより集められた情報を使用すべきである
- 運動負荷は再受傷とリンクするかもしれない。RTS決定において考慮に入れるべきである
- 心理的因子はリハビリ中やスポーツに復帰する段階で考慮すべきである
- 一般的なアスリートのケガの復帰基準についての合意が必要である
このコンセンサスステートメント後半に代表的なケガにおける疫学と現状の復帰基準として使える情報のまとめも載っていました。スポーツ現場での基準として使うにはまだまだ不十分なところが多いので,これからの新たな研究発表にアンテナ張っておく必要ありですね。
参考文献
1) Ardern CL, Glasgow P, Schneiders A, et al. 2016 Consensus statement on return to sport from the First World Congress in Sports Physical Therapy, Bern. Br J Sports Med. 2016 Jul;50(14):853-64. doi: 10.1136/bjsports-2016-096278. Epub 2016 May 25.
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