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関節鏡視下肩腱板修復術後の筋力回復について

Study

肩の回旋筋腱板の損傷後に関節鏡視下肩腱板再建術を行うことがあります。
損傷の程度や手術方法にもよりますが,手術後のリハビリテーションは3~4週間の外転装具固定,その後軽い負荷での修復した筋腱のトレーニングを進めていき,およそ3ヵ月で概ね日常生活の困難が減ってきます。6〜12ヶ月程でもともとの生活が問題なく送れるようになります。場合によってはもう少し期間を要することもあります。手術後の時期に応じて修復部に適切な負荷を決めていく必要があるため,術後リハビリはとても重要です1)
一般的に腱板の断裂サイズが大きいほど再断裂リスクが高い1)2) のでリハビリはゆっくりめに進めることが多いのですが,断裂サイズが大きい場合に筋力回復に時間を要してなかなか患者さん自身の力で手を挙げる動きの範囲が広がってこないケースを経験することがあります。

実際のところ,断裂サイズによって術後の筋力の回復にどの程度差があるのでしょうか。
術後の筋力回復の経過に関して参考になるのがこの文献3)

術前の肩腱板断裂サイズと術後の筋力の回復が関連するのかをみた研究です。
研究デザインは後ろ向きのコホート研究。
関節鏡視下肩腱板修復術後の患者の術後6,12,18,24ヵ月時点での肩関節前方挙上,外旋,内旋の等尺性筋力を計測。315名がフォローアップ前の時点で採用基準を満たしていたが,24ヵ月までフォローアップできた患者は164名(平均年齢55.2±9.0歳)。断裂サイズの内訳は,小断裂 Small Tears(<1cm) 60名,中断裂 Medium Tears(1-3cm) 79名, 大断裂 Large(3-5cm)-to-Massive(>5cm) 25名(massive 4名)でした。リハビリプロトコルは断裂サイズによって調整された統一したプロトコルを使用して,主にフォローアップ時にホームエクササイズ等を指導していたみたいです。(あまりセラピストと患者が一対一での個別のリハビリはあまりやっていなかった?)
術前の腱板筋の評価はMRIにて筋の質,脂肪浸潤,Occupation ratio, tangent signをみています。
術後評価は,筋力以外に痛みの評価としてvisual analog scale(VAS),  American Shoulder and Elbow Surgeons (ASES) score, and Constant scoresをフォローアップ時に計測しています。

結果をみてみましょう。
健側と同程度の筋力回復までに要した期間は,Small tears 6ヵ月, Medium tears 18ヵ月となっており,Large-to-Massive tearsでは24ヵ月でも健側の8~9割程度という結果でした。注目すべきはLarge-to-Massaive tearsにて18ヵ月まで筋力回復が認められていて,24ヵ月までASES scoreが改善したということです。

 

大断裂での再断裂リスクも考慮すると,やはりゆっくりと長い目で経過をみていくのが良さそうですね。一年半後にも改善が認められるので,患者さんに対しても励ましつつ,いかにリハビリのモチベーションを保つかがセラピストにとって重要なスキルの一つだと思います。

現在の日本の保険医療制度では,運動器疾患の算定日数上限は150日と規定されていますが,その期間を超えても理学療法を継続する必要があるケースが多いと思います。
大断裂の場合や脂肪変性があった場合の関節鏡視下腱板修復手術後のリハビリは,筋力の改善を焦らずじっくりと肩腱板筋の機能改善を図ることが重要と考えられます。

参考文献
1. Saltzman BM, Zuke WA, Go B, Mascarenhas R, Verma NN, Cole BJ, et al. Does early motion lead to a higher failure rate or better outcomes after arthroscopic rotator cuff repair? A systematic review of overlapping meta-analyses. Journal of shoulder and elbow surgery. 2017 Sep;26(9):1681-91. Epub 2017/06/18.
2. Raman J, Walton D, MacDermid JC, Athwal GS. Predictors of outcomes after rotator cuff repair-A meta-analysis. Journal of hand therapy : official journal of the American Society of Hand Therapists. 2017 Jul – Sep;30(3):276-92. Epub 2017/02/27.
3. Shin SJ, Chung J, Lee J, Ko YW. Recovery of Muscle Strength After Intact Arthroscopic Rotator Cuff Repair According to Preoperative Rotator Cuff Tear Size. The American journal of sports medicine. 2016 Apr;44(4):972-80. Epub 2016/02/07.

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